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7.


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しっかし、ほんっと規格外の姫さんだよな。
幾ら室内用のドレスとは云え、あのカッコで寝所の窓から外へと逃げ出して、そのまま厩舎から馬一頭拝借して城から逃亡するとかマジありえねえだろ。じゃじゃ馬にも程があんだろ!
しかも乗馬の腕はなかなかのモンで、ぶっちゃけ後追うも何も、見つけ出すだけで精一杯。
追い付くだけでもイッパイイッパイだったぞ、マジで!
なんっちゅー面倒なことをしてくれると云う腹立ちは、…だが。
「え?一護お?!」
涙でぐしょぐしょの顔を目の当たりにしたその瞬間、綺麗さっぱりと消え失せていた。
文句をぶつけるどころか、何も言えなくなってしまったのだった。
(参ったな…)
すっかりへしょげちまった乱菊さんは、俺が幾ら諭したところで、
「ずええええったいに城には帰らないからっ!!」
と言い張るばかりで、ちっともこの場を動こうとしない。
あまつさえ「このまま馬で国まで帰る!」と無茶振りも露に駄々を捏ねるものだから、どうしたもんか…お手上げである。
(ったく、恨むぞ冬獅郎)
「だあーから、アイツの許可無く帰れるわけがねえだろがっ!」
「だから許可もぎ取って来てって言ってんじゃない、さっきからっ!」
「出るわけねえだろ、そんなもん!あんたこの国に嫁いで来たんだぞ?!婚儀こそこれからにしろ、とっくに『王妃サマ』なんだからな!…だいたいなあ、アイツがあんたと離縁なんてするわけねえだろ!!」
「するわよっ!も…元々あのひと、あたしのことなんて何とも思ってなかったんだから!妹との婚姻をぶち壊しにした、所詮お節介な邪魔者でしかなかったんだから、そりゃあ喜んで離縁するわよ!」
あの子とトレードするに決まってんじゃない、バカ一護!!とは、また随分な言い種じゃねえか。
また随分と思い込み激しく、頭から否定してくれるじゃねえか。
これ全てあのバカのせいだと思うと、ほんっっとーーに頭が痛てえ。つか、参った。
…まあ、確かに最初の内はなあ。
嫁いで来たのが二の姫じゃなかったことに、あいつもすっげえ動揺してたし、それ以上にショック受けてたみたいだし?
乱菊さんのこと、認めたくねえし認められねえって感じで頑なだったし、ヤツに一切非がねえとまではさすがに言わない。否、言えっこないんだけどさ。
あれこれ葛藤しながらも、毎日花を送り続けたのだって、内心じゃあんたのことを気に掛けていたからで。
今じゃ何気にめろめろなんだぜ、乱菊さんに。
だから所詮『二の姫』のことは、淡い初恋…みたいなもんに過ぎなかったんだと思うぞ、と。
何度目になるかわからない説得を試みるも、「…慰めてくれなくてもいいわよ、別に」とけんもほろろ。
俺の言葉なんてまるっきり信じちゃいないのである、この姫さんときたら。
(っだああああ!面倒臭せえええええ!!)
なんっっでそんなに頑ななんだよ、意固地にヤツの気持ちを疑うんだよ!
いや、気持ちはわかる…わからんでもないが、その後のヤツの態度を見てりゃあ、今となっては乱菊さんにベタ惚れなのは一目瞭然。
王宮内じゃあ周知の事実だっつーのに、なんっっで当の本人にはわっかんねえかなあ。
とにかく一度城に戻って、ちゃんとヤツと話し合ってみろと何度諭せば聞き入れてくれるんだよ、あんた。
つーか、マジでどうすんだっつの。
知ってか知らずか、乱菊さんが逃げ込んできたここは、一応王家の狩猟場でもある森の中なれど。
王宮から随分と離れた場所にあることを鑑みれば、いい加減帰途に着かなければ、日が暮れるまでに離宮へと送り届けることは先ず不可能だ。
となれば当然ヤツの機嫌は悪化の一途を辿るばかり。
…否、それ以前にあいつのことだ。
帰らぬ乱菊さんの身を案じ、今頃仕事も手につかないでいるに違いない。
なのに当の乱菊さんときたら、どこ吹く風。
「いいわよー、別に。あんたひとりで戻んなさいよ」
仕事あるのに悪かったわね、…って。
そう思うんなら何で一緒に戻ってくんねえかなあ。









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あきゅろす。
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