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6.


尤も冬獅郎にすれば、当然ながら青天の霹靂。
言われた言葉の重みと、乱菊さんの真意を測りかねたのか、面白いぐらいに顔を強張らせていたのは言うまでもない。
「…は?てか、いきなり何を言い出してんだよ、お前は!?」
暫しの硬直から漸くのこと我に返ったらしい冬獅郎は、当然の如く乱菊さんへと詰め寄っていた。
それも怒りと困惑の入り混じった、恐ろしく剣呑な面持ちで以って。
無論、外に控えていた俺も、他の近衛騎士達も。それから乱菊さん付きの侍女達だって例外でなく、皆一様に動揺していた。
ぶっちゃけ、この時誰もが内心「うおーい!いったい全体何やらかしたよ、王様あ!?」と。
腹の中で冬獅郎を非難していたに違いない。
焦れに焦れていたと断言出来る。
けれど乱菊さんは鷹揚に笑うばかり。
まるで聞く耳持ちませんとばかりの澄ました態度が、冬獅郎の焦りと怒りとに更なる火をつけたのは言うまでもない。
「で、出来るわけねえだろが、離縁なんて!だいたいお前自ら望んでこの国に嫁いで来たんだろが!!」
それを何を今更勝手な、…との冬獅郎の言い分は。
だが、皆まで口にする前に、乱菊さんによって遮られた。
…それも。
「ええ。ですからあたしの代わりに今度はあの子を…『二の姫』を、改めてこちらに王妃として迎え入れられたら宜しいのでは?」
そもそも王様はあたしではなく、あの子を妻にと望んでいらしたようですから、と。
おっそろしいまでの綺麗な笑顔で以って爆弾を落とした。
底冷えするような声音で以ってのたまったから、さしもの冬獅郎も「何でそれを!?」と、ギョッと目を瞠り驚いていた。
あ、バカ…!と。
思う間もなくヤツは暴露しやがったのだ。
彼女を『王妃』として受け入れた以上、決して乱菊さんに知られてはならないトップシークレット…二の姫へと抱いた嘗ての淡い恋心のことを。自らの口で。
(つか、大馬鹿だ!)
その、瞬間。
ほんの一瞬彼女の顔が泣き出しそうに歪んだことに、俺と冬獅郎は目を瞠る。
果たして誰が何を乱菊さんに吹き込んだのかは知らねえが、間違いなく傷付けたのだ…と。
その一瞬で否応にも察せられて焦りが増す。
その際たるは、当然ながら冬獅郎である。
うろたえながらも「違っ…そうじゃねえ!!」と慌てて否定を口にするも、時既に遅し。
頑なな彼女はまるで聞く耳を持たない。持とうとしない。
ヤツの言葉に耳を傾けない。
何しろ泣き出しそうに表情を歪めたのはほんの一瞬で、すぐにもまたあの作り物めいた綺麗な笑みを取り繕ってしまったのである。
「…嫁いでからのひと月余り、一度として顔を見せにもいらして下さらなかったのは、代替わり以降の政務が溜まっているからだと云う宰相様の説明を疑うことなく鵜呑みにしていましたが、本当はあの子に未練があったから…あたしがあの子の代わりにこちらに嫁いで来たりしたからだったんですよね、わっかりました!」
ぱあんと高らかに拍手を打って、これで話はおしまいとばかりに背を向ける。
「今までお世話になりました。どうぞこれからはあの子と末永くお幸せにっ!!」
言うが早いか寝所に向かって駆けるように歩き出し、バタンと扉を閉ざしたのである。
あまつさえ、そのままカチリと鍵を掛けられた。
天照大神宜しく、寝所に閉じこもっちまった乱菊さんは、その後結局冬獅郎がどんなに詫びても宥めすかしても、どれほど声を枯らして開けろと懇願したところで、まるっきり反応を示すことはなかった。
それこそ四半刻余りもの間、寝所に続く扉の前で、打つ手もないまま誰もが焦れていたその時のことだ。
「日番谷くーん!」
何騒いでんのさ、と。
ひょっこり顔を覗かせたのは、宰相である京楽さんだ。
途端冬獅郎が、然も苦々しげに舌を打ち鳴らす。
「ンだよ。まだ政務に戻るには早ええ時間だろ」
「んー、そうなんだけどね。実は今しがた王妃様が馬に乗って城を出たって報告が上がって来たもんだから、日番谷くんに報告がてら、ホントか嘘か確かめに来たとこなんだけど…」
なーんかあった…みたいだねえ、と。
京楽さんが苦い笑いを浮かべると同時に、
「黒崎!すぐに後を追え!!」
鋭い声でヤツが俺へと護衛を命じた。
――結果、今に至ると云うわけである。








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