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5.


さて、空気を読まずに微笑ましいまでの乱菊さんの『秘密』をバラしてくれた件の侍女には、その後当然ながら褒賞金が手渡されたのは言うまでもない。
何しろ俺も、ヤツの周りの重鎮共も。
いい加減はっきりしない、乱菊さんに対する冬獅郎の態度に、焦れてもいたし呆れてもいたのだ。
このまま王妃として据えるつもりで在るならば、そろそろ王としての責務(まあ、要するに世継ぎを作れっつーことだよな)を果たせ。
今尚二の姫に未練を残しているようならば、袖にした王妃に花を贈るなど下手に気を持たせるような真似をせずとも、さっさと離縁して国へと戻し、新たに王妃を向かえて貰わなければいつまで経っても落ち着かない。
結婚式の準備ですらもままらならない。
そんな不満を誰しも腹の内へと抱えていたのだから、誰もが指を立て「グッジョブ!」と、件の侍女を誉めそやしたのは言わずもがな。
何故なら一部の貴族連中はともかくとして、この時既に国の中枢を司る冬獅郎の側近達は、その殆どが彼女を王妃にと望んでいた――概ね乱菊さんに好意を抱いていたのだから、その反応も当然と云えた。
要するに、誰しも口に出さないまでも、今更二の姫…ないしは別の姫さんを新たに王妃として迎え入れることに、内心躊躇していたのだった。
(なんだかんだで結局、俺ら全員いいように懐柔されちまってんだよな、あのひとに)
冬獅郎にしても、最初の取っ掛かりこそアレだったものの、初めてふたりで取る夕食はなかなかの盛り上がりを見せたらしい。
つっても、主にしゃべっていたのは乱菊さんだったらしいが、常に冬獅郎は笑っていたし、会話が途切れるようなこともなかった。
乱菊さんに至っては、満面に笑みを浮かべていつも以上に食事を楽しんでいたと、後に報告が上がって来ている。
それに気を良くしたのか、はたまた冬獅郎自身乱菊さんと取る食事を楽しんだからか、以来ヤツは乱菊さんと必ず夕食を共にするようになる。
更には然程時置かずして、夕食のみならず朝食と昼食までをも彼女と共に取るようになった。
ばかりか、溜まった政務がひと段落するようになってからは、午後の休憩をも彼女と過ごすようになったのである。
そうしてふたりが少しずつ交流を持つようになり、二十日余りが過ぎた頃、とうとう夜の渡りを迎えた。
めでたくも新枕を交わして、晴れて本当の夫婦になるに至ったのである。
いやもう、ほんっっとーーーに長かった!
乱菊さんが嫁いで来てからここに至るまで、およそ…ふた月と半?
豪いこと時間が掛かったと、俺達周囲の感激もひとしおだった。
何しろ最初のつまづきが嘘のように、傍目にも夫婦仲は睦まじく、初夜を迎えて以来冬獅郎は夜毎乱菊さんの部屋へと渡る。
おかげで王宮にある冬獅郎の自室は最早『物置』も同然。
(まあ、暇さえあれば乱菊さんの元へと通ってるしな、アイツ)
仲睦まじいっつーかむしろ、ベタ惚れっつーか?
本人にその自覚があるかどうかは知らねえが、少なくともヤツの中から嘗て淡い好意を抱いた二の姫のことはすっかりと抜け落ちていた筈、…だった。
(それがなんっでこんなことになってんだよ!?)
斯くして話は冒頭へと巻き戻る。
いったい全体『何』が起こったのか。
今日も今日とて午後の休憩時に乱菊さんの元へと向かった冬獅郎に、乱菊さんは開口一番のたまったのだ。


「――離縁して下さい」


それも、満面に笑みを浮かべての所業である。










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