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3.


派手な見た目も、無駄に『女』を誇示したような肉感的な身体付きも長身も、その何もかもが冬獅郎の癇に障ったのは見ててわかった。
姿絵だけの二の姫に、既に淡い好意を抱いていたことも相俟って、恐らくは「面白くない」と思って不貞腐れてしまったものと思われる。
ゆえに自身の気持ちを持て余しまくったヤツは、あろうことか乱菊さんが嫁いで暫くの間、半ば捨て置くように扱ったのだ。…よりにもよって。
一切の折り合いを付けられないまま、それでも嫁いで来てしまった以上、王妃として迎え入れないわけにはいかなかった。
だが、決して部屋にも近寄らず、食事ひとつ一緒に取ることもしない。
…まあ、ひっでえ話だよな。
尤もこの時既に冬獅郎も二の姫に心惹かれていたわけだから、まったくタイプが真逆の乱菊さんを扱いあぐねたヤツの気持ちも確かにわからないでもないのだが。
それでも単身他国に嫁いで来た乱菊さんの気持ちを慮れば、全面的にヤツの肩を持つのも正直気が引けると云うものだ。
(ま、一応俺の『主』ではあるんだけどな)
なんっつーか…ついつい肩入れしたくなっちまうんだよな、このひと見てると。
二の姫を庇うように嫁いで来たと明かした初見の印象の良さを裏切らない、人当たりの良さと気風の良さ。
概ね明るく大変陽気で、王族の姫さんだと云うのに俺達侍従相手にも実に気さくで気兼ねない。
それが決して『計算』でないことは、十日も経てば自ずと知れた。
(だいたい寝酒欲しさに夜中、こっそり厨房に忍び込むお姫さんなんて、嘗て見たことも聞いたこともねえよ!)
決して礼儀を知らないわけじゃねえんだろうが、やることなすこととにかく大雑把。豪放磊落ときている。
その癖頭はそこそこ切れるし、会話はウィットに富んでいる。
ばかりか話を煙に巻くのも大層上手く、乱菊さんが嫁いで以降催された然程多くは無い茶会や夜会の場で、彼女を貶めようとする小意地の悪い貴族連中や令嬢方を、その良く回る舌でコテンパンに伸していたのはまだ記憶に新しい。
(なんっつーか、悉く規格外の姫さんだよな)
小国とは云え、一国の姫君らしからぬ伝法な物言いだとか、淑女からは程遠い行動力から、これまで纏まる縁談も纏まらなかったらしいとの乱菊さんに関する報告書を受け取って、さしもの冬獅郎も絶句していた。
曰く、――とんでもねえ女じゃねえか。
変なオンナ、と。
呆れたように口に出してはいたのだけれど、その実乱菊さんに僅かながらも興が引かれたらしいことは、誰の目にも明らかだった。
比例するように王宮の中、日を追うごとに少しずつ増えてゆく彼女のシンパ。
主に彼女付きの侍女となった者達を筆頭に、例えば庭師だとか俺ら護衛の騎士達だとか、乱菊さんに好意を抱く連中は確実にその数を増していた。
事あるごとにちょいちょいと酒をくすね取られては、その都度憤慨していた料理長始めお抱えのコック達も、何を出しても美味い美味いと全て平らげてくるその食いっぷりに感嘆を発し、あの誰をも魅了する大輪の花が綻ぶような笑顔で以って、「いつも美味しいご飯を本当にありがとう!」と直々に礼を述べられるに至って、頑なだったそれまでの態度に綻びが生じた。
手のひら返したようにあっさりと、懐柔されるに至ったのである。
(だがそれも当然のことだろう)
何しろ貴族の姫さん連中ってのは、とかく小食だし舌が肥えている分味にもうるさい。
その癖やたらと好き嫌いが激しく文句も多いと、前国王の側妃達の高慢且つ傲慢なる振る舞いに、時折コック達が愚痴を零していたことを思い出しては浮かぶ苦笑。
…なるほど、確かに乱菊さんの反応とは天と地ほども違い過ぎて、彼らがこうもあっさり懐柔されたのも頷ける。
だが、それだけじゃなかった。









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