[携帯モード] [URL送信]
1.


――なんっつーか、面倒くせえ夫婦だよなと思うのはこんな時だ。


「てか、いい加減帰ろうぜ乱菊さん。さすがに冬獅郎が心配すんぜ」
「帰りたいんならあんたひとりで帰んなさいよ。てゆーか、あたしが帰らないぐらいで心配するようなひとじゃないわよ」
「ンなわけねえだろ。だいたいそうでなきゃ外に出んのに近衛の俺をあんたの護衛に付けたりしねえよ」
「単に人手が足りなかったってだけなんじゃないの」
「…あんたなあ。つか、クッソくだらねえ冗談はいいから、マジでそろそろ帰ろうぜ。いい加減日も暮れちまう」
そう言って。
溜息半分見上げた空は、半ば茜色に染められている。
仮にここから全速力で馬を走らせたところで、王宮に帰り着く頃にはすっかり日は沈んでいることだろう。
よもや説得ひとつにこうも時間が掛かるとは思わなかったと云うのが正直なところだ。
せめて城まで伝令を飛ばせたらいいのだが、生憎お付きの護衛は現状俺ひとりきり。
他のヤツらが追い付く気配は微塵もない。
となれば未だ「帰らない」と言い張る彼女ひとりをこの場に残して、俺が馬を走らせるより他ないのだが、幾らなんでもそんなマネが出来よう筈もない。
(ったく、どうすりゃあいいんだよ!)
参った。マジで参った。頭が痛てえ。
面倒くせえことこの上ねえ。
これ見よがしに吐き出した、今日何度目かの溜息と同時に、その場に響き渡った場違いな音。
…ぐう、ぎゅるる。
目を点にして音のしたほうを振り向けば、羞恥で顔を真っ赤に染めた乱菊さんが、両腕で腹を押さえている最中だった。
「つか、腹減ってんスか?」
「っ!!」
ぷいと背けられた視線。
けど否定はされなかったので、多分腹…減ってんだろうなあと思われて、再び深い溜息が漏れた。
「なあ、今から戻ったらギリ夕食の時間に間に合うぜ?だから帰ろうぜ、乱菊さーん」
腹立ててんのはわかるけどさあと宥めたものの、やっぱり彼女は頷かない。
代わりに『梃子でも動かない』とばかりに、その場に蹲る始末だ。最悪だ。
こんな事態に陥った以上、さすがにいつも通りの夕食の席が設けられているとは思わないけれど、それでも恐らく…ヤツの機嫌は悪化の一途を辿るに違いないと思われる。
(ああ見えてアイツ、乱菊さんと一緒に飯食うの、何気に楽しみにしてるみたいだしな)
基本まったく顔に出さない上に、態度で示すこともない。
況してや口に出すことさえも。
それでもアイツが存外、つい先だって嫁いで来たばかりの五つ年上の隣国の姫君を気に入っているのは明らかで。
だからこそ俺は今こうも弱り切っている。
元はといえば一年前、前国王の崩御に伴い即位した、ヤツの『容姿』にこそ問題があった。










[*前へ][次へ#]

2/33ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!