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5.


(そういや松本と映画を観に来たことなんて無かったな)
映画館の暗がりの中、ぼうやりとスクリーンを目で追いながらふと思い出す。
基本俺も松本も、余り外に出るのが好きじゃなかった。
況してや人混みなんてもっての外。
だから映画はもっぱらDVDを借りて済ませた。
予想外にも松本は、その見た目に反してガキ向けのアニメだとか娯楽アクションみたいな映画が好きで。
反対に、何故か恋愛ものは好きじゃないと豪語していた。
俺にしたって興味は無かったし、然して観たいと思ったわけでもねえが。
女の癖に珍しいなとも思ったから、一度それとなく理由を訊ねたことがあったのだが、
「だって、いつだって幸せになるのは可愛くって守ってあげたい――そんな風に思わせる女の子ばっかりなんだもの。そーゆー子が主役の話ばっかりじゃない。逆にあたしみたいなタイプの女は、大抵最後に捨てられるか遊び相手で終わるかの取り巻き役?いずれにしろ場を盛り上げる為の『引き立て役』に終始するってのがこの手の映画の定石だからね」
観てて虚しくなるから嫌なのよ、と。
良くわからない理由を並べ立てていたことをふと思い出す。
ついでのように、DVDを観ている合間、戯れに交わしたくちづけまでも。
舌を絡めて、脚を絡めて。徐々に上がってゆく互いの体温。
気付けば借りてきたDVDもそっちのけに、自堕落に身体を重ねた記憶までもが脳裏に蘇る。
――基本、嫌がるっつーことをしねえ女だったよな。
所詮七つも年下のガキのすることだからと思っていたからなのか、前触れも無く部屋を訪れようが盛ろうが、別にいいわよ…と、両手を広げてあっさり俺を受け入れる。
好きにやらせてくれたおかしな女。
ゆるいんだか適当なんだか、はたまた器でっけー女なんだか良くわっかんねえ女だったなと思って浮かぶ苦笑。
その癖妙なところでガキっぽくもあった。
しかも相応に頑固で意固地、見た目の女臭さに反して豪胆で。
確かに松本の言う通り、いわゆる可愛げだとか守ってやりてえと思わせるようなか弱さなんぞは、微塵も見受けられなかったような気がする。
拗ねて、笑って、また拗ねて。
時に我がままが過ぎて面倒臭せえとこはあったものの、嫌いじゃなかった。そんなところも。
傍に居ると居心地良かった。楽だった。
(…なのにどうしてこうなった?)
気付けば他の女に心を移した。惹かれていた。
お座成りになった。何もかも。
こうしてふた月余りも距離を置かれたことにも、気付くことがないまでに。
とうに忘れたものと思ってたのに。
(…なのに何で今になって、こうも苛立っているんだよ、俺は)
その存在ごとまるっと忘れていた癖に。
自ら他の女を選んだ癖に。
なのに今更あの女の姿を目に留めて、酷く心はざわついている。
今この瞬間も、他の男と一緒に居るのかと思うと落ち着かない。








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