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3.


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今の今まですっかり忘れ去っていた、記憶の片隅にも残ることの無かった存在。
なのにこうも色鮮やかに俺の視線を奪っていった女がいる。

街で見かけたのはほんの偶然。
ひと際目を惹く濃い金髪と、グラマラスボディに目を奪われて、すぐにも気付いた。
けれど向こうは俺の存在に、微塵も気付いてなんていなかった。
それが酷く腹立たしく、同時に口惜しいような気がした。
一年余りも傍に居た女。
付き合っていたと言っていいのかは良くわからない。
それでも暇さえあれば部屋を訪ねた。
身体を繋げて自堕落に耽り、時に一緒に出掛けもした。
俺に『女』を教えた初めての女。
居場所を持たないまだガキの俺に、あの頃唯一手を差し伸べてくれた女でもあった。
けれどいったい何時からだったのだろう。
あれほど居心地の良かった女の傍を、然程必要とも思わなくなった。
慣れ親しんだ存在は、確かに一緒に居て楽ではあったが、今となっては惰性に等しい。
我を失う。
溺れるように肌を重ねる。
そんな日々は失ってとうに久しいものの、手っ取り早く抱ける女――ゆえに、気が向けば足は女の元へと向かう。
だがここ久しく女の部屋を訪ねてはいない。
(いったい何でだ?)
自問するまでもなく、答えはすぐにも浮かび上がった。
…そうか、鍵を取り上げられたからか。
与えられていた、女の部屋のスペアキー。
鍵の調子が余り良くないからと、ふた月ほど前に返してくれと言われたのだった。
「付け替え終えたらまた連絡するわ」
そう言ったまま、およそ二ヶ月。
今尚連絡一本寄越されてはいない。
そんなことすら、今の今まで忘れていた。
忘れ去ってしまうぐらいには、俺の中で女のことは遠く置き去りになっていたのだった。
空白のこの二ヶ月を思えば戸惑いはしたが、声を掛けるのに躊躇は必要なかった筈だ。
それでも二の足を踏んだのは、偏に女の隣に見知らぬ男が連れ添っていたからに他ならない。
俺より七つ年上の女と並んで遜色の無い、年代的にも釣り合った男。
どんな仲かは知らねえが、女の様子から余所余所しさは窺えない。
(よもや新しい男でも引っ掛けたか…)
何しろ女は酷く人目を惹く派手な容姿をしていたし、男好きする肉感的な身体をしていた。
当然周りの男が放って置かない筈もなかったし、俺と一緒に居た時ですら、執拗に声を掛けられることもあったのだから。
ゆえに、このふた月の間に新たに男が出来ていたとしても不思議はないし、むしろ当然のこととも言えた。
(あんな女が、こんな七つも年下の…ガキの俺を受け入れたこと自体、そもそもおかしな話だったのだ)
あんなイイ女が一時とは云え、俺と関係を持ったこと自体奇跡にも等しかったのだと、今になってから否応にも思い知らされる。
(つーか、面白くねえな)








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あきゅろす。
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