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6.


躊躇い半分見上げた先、カチリと目が合う。
薄いくちびるがゆうるり弧を描く。
…なんと云うか、悪い顔。
(おっかしいなあ。前はこーんな顔して笑うような子じゃなかったと思うんだけどな)
そんなあたしの戸惑いすらも、全てまるっとお見通しなんじゃないかと見紛う悪い笑顔で、あたしの上へと圧し掛かる身体。
しんと静まり返った部屋の中、頭の上ではエアコンが暖かな空気を送り出している。
それでも未だ部屋の中は肌寒く、況してやこの子の身体は冷え切っていて、髪も指先もひんやりと冷たかった筈なのに。
今あたしへと触れるその指先は、ゆっくりと熱が点り始めている。
「コーヒーは?」
「後でいい」
そんなもんより松本サンがあっためてよ、と。
わざと声を落として耳元で囁く。
ついでのように、カリリと耳朶に歯を立ててゆく。
慣れた手付きでコートを脱がされる。
「とーしろーくんてば、えっちいよね」
「それ、松本サンにだけは言われたくねえな」
(いやいやそれってばどーゆー意味よ?)
色々と失礼なことを言われているような気がしないでもないのだけれど、口を開いた傍からくちづけられては反論ひとつ出来ようもない。んが、ぐぐぐ…。
目を白黒とさせるあたしに、くつと笑って。
喉仏が上下する様をうっとり眺めているその間にも、ニットをたくし上げてゆく大きな手。
(あたしより十センチ近くちっこい癖に、手だけはおっきのよねえ、この子)
今思い返しても、三ヶ月前はこんなにもふてぶてしくはなかった筈だ。
況してや女に慣れてもいなかった筈なのに、ほんのひと月ほど前に、乞われるままに一線を越えて以来、あっさり態度は覆された。ような気がする。
ふてぶてしさに輪を掛けて、更にはちょっぴりやらしくなった。
…いや、元からやらしかったのか?
(うんまあ、一応男の子だしね)
花も恥らう男子高校生なわけだしね。
だけど『あたし限定』でやらしいとあらば、最早文句のつけようもありませぬ。
だから許容しちゃうんだけど。
いつもだったらこうしていきなりスイッチ入ったとしても、抗おうとも思わないんだけど。
むしろ喜んで迎え入れちゃうひとなんだけど。
生憎今日のあたしはちょっぴり落ち込んでいて、凹んでいて。
その原因の一端を、この子が担っているも同然で。
だからやっぱりいつも通り…とは行かない。
まだどうしても昼の鬱屈が振り切れないままだったから口が滑った。
「ね。もしかして、この為にあたしに会いに来たの?」
言わんでもいいひと言が口を衝いて出た。








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あきゅろす。
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