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5.


だけどすぐにも部屋の中は温まりそうもなくて、追い討ちのようにとーしろーくんが「…っきし!」とくしゃみをしたので、これはマズイとパニクった。
「ああああ、毛布!タオル!体温計いいいい!いやその前に、そう…コーヒー!コーヒーでいい?!」
「いや、先ずは落ち着けって」
「だっ、誰が落ち着かなくさせてんのよう!」
「別にこのぐらい平気だって。ちょっと冷えただけだっつの」
「って、鼻垂らしながら言われて誰が納得するかあ!」
ああ、もう!と。
ティッシュの箱を手渡してやって、そのマイペースっぷりに溜息を吐く。
ずびーっと鼻をかむ傍らのコドモを前に、ずるずるぺたんとその場に頽れる。
(ホント何なの、何なのよこの子!)
恨めしさいっぱいにじとりとねめつけたなら、どうやら視線に気付いたらしい冬獅郎少年が、抱えていたティッシュの箱を傍らに置き、然も当たり前とばかりにあたしの肩を抱き寄せる。
更には覆い被さるようにくちづけてくる。
それも、舌を使ったちょっぴり深いヤツ。
「なんでそこでいきなりちゅー?!」
「はァ?!ンな物欲しげな顔して見つめられたら、しないワケにはいかねえだろが」
…って。
ちょい待ち、誰がどんな顔して見つめましたかね?
「視力だいじょーぶ?」
「安心しろ、両目とも2.0だ」
「そゆこと言ってんじゃないわよ、バカ」
口ではバカと罵りながらも、再び近付いてくるくちびるに抗うような真似はしない。
逆に自ら腕を伸ばして首裏に回し、距離を縮めた時点でどちらの言い分が正しいかなんて言わずもがな。
それこそ瞼を閉じるその直前、あの子の翡翠の瞳に映る、至極物欲しげなあたしの顔を見るまでもなく明らかだろう。
くちびるを重ねて、ざりと舌をこすり合わせて。
――ほら、みるみる内に満たされてゆく。
「うう…。とーしろーくん、大好きっ」
くちづけの合間に呟くように零したら、ふっと相好を崩して垣間見せたやわらかな笑顔。
「松本サン、もうすっかり俺に夢中だな」
ちょっとからかうような口調が何とも小憎たらしくはあるものの、ホントのことだから否定は出来ない。否定しようとも思わない。
だからと言って素直に認めてしまうのも、何と云うか…年上の矜持ゆえか面白くなくて、ついつい可愛げのない態度を取ってしまうおバカなあたし…。
「そーよう。だからちゃあんと責任取ってよねっ」
軽口の中にほんの少しだけ本音を織り交ぜて、拗ねた振りしてそっと反応を窺うも。
「そっちこそ。最後までちゃんと責任取らせろよ?」
………。
だからそれってば、どーゆー意味よ?と。
思わず突っ込みたくなるようなことを、この少年は間々迂闊にも口走ってくれるのだけど。
「逃げたら承知しねえし」
…って。うん。いや別に逃げるつもりとか皆無ですけどね?
むしろ逃げたら承知しないってそれ、どっちかって云うとあたしの台詞なんじゃないかな?って思うんだけど。
(ナニコレあたしの将来、もしかしなくとも飲み屋の女将で決定ってことなのかしら?)
(ん〜、期待していいってことなのかな?)









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あきゅろす。
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