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ダーリンミロード 1.


「あんたってば、バッカじゃないの?!」
信じらんない。
あったまおかしいわよ、と。
容赦無くも続けられる罵詈雑言に、最早返す言葉もなく。
デモデモダッテと言葉にならない言い訳を、もごもごと口の中で繰り返す。
「てゆーか、相手は○○社でしょ?!しかもイケメン!それも、聞いた話じゃ営業部一のやり手って話じゃないの。それのいったいどこが不満だっつーの!」
むしろあたしが代わって貰いたいぐらいだわよ!と息巻く同僚達の説得を他所に、人知れずこそりと溜息を吐く。
つい先だって、頭数合わせに無理やりのように引っ立てられて足を運んだ合コンで、ついうっかりと男をひとり釣り上げてしまったのが思えば事の発端だった。
相手はそこそこ名前の知れた商社の営業さんで、しかもなかなかのイケメン。
加えてまだ二十九と年若いことから、出席した女性陣のその殆どが彼狙いだったのは言うまでもない。
(いやいや、そうは言ってもそんなオイシ過ぎる物件が、なーんでこんな合コンなんぞに顔出したりしてんのよ?って話なんだけど)
尤もあたしにすれば、所詮はただの頭数合わせ。
合コン如きでまじめに男捜すつもりもなければ、遊び相手を探していたってわけじゃない。
むしろ早く帰りたくて仕方がないと云うありさまで、正直やる気は微塵もなかった。
――なのに、何がどうしてこうなった?
何故か件の好物件くんにガッツリ目を付けられた挙句、お付き合いを迫られるに至っていると云うわけだ。
(うん、まあ…もちろんソッコーお断りしましたけどね?)
そりゃあそうでしょ。当然でしょ。
だってあたし、彼氏がいるもの。
それも付き合い始めてまだ間もない、ラッブラブのかーわいいカレシ!
だから当然「ごめん。あたし彼氏がいるから無理」と、丁重にお断りをした筈だ。
他所を当たってくれと告げた筈なのだけど。
なーんかね、思いのほかシツッコイのよ、この男が。
あー…、これはマズったな。対応を見誤ったなと気が付いたのは、男の目の色が変わった瞬間だった。
(うん。間違いなく、いらん闘志に火をつけたよね?今、あたし)
たかが合コンで一度会っただけの女にこうも執着する理由なんて、それ以外に考えらんないもんなあ。
見るからに『過去、女に困ったことがありません』ってタイプの男だもんねえ。
如何にも『これまで狙った女に袖にされたことが無い』って雰囲気醸し出してたもんなあ、あの男。
そもそもからして、こんなあたしのいったいどこをお気に召したのかしら?
顔かな?
(まあ、美人に違いないけどね!)
はち切れんばかりのお胸かな?
(まあまあ、人並み外れて大きいけどね!)
それともアレかな、つまみ食いにはちょうど良さげな、一見遊び慣れてそうな雰囲気に、闘争心が駆られましたか?
(いや別にあたし、そーゆータイプの女じゃないんだけど!)
そりゃあ、顔立ち派手だしメリハリ激しいボディもそこそこ目立つ、頭軽そうな見た目ではありますけども。
中身、ただのオヤジだから。
イケイケドンドンな見かけに反して、ただのオヤジ女子なだけだからっ!
などと慌てて言い添えてはみたものの、時既に遅し。
「またまた、ご冗談を」と軽く往なされた。
と云うよりむしろ、下手な芝居打ってまで俺の誘い断りてえってことかよ的な顔でねめつけられて慄いた。
うん。てゆーか、勝手に触んじゃないわよ、ひとのカラダ。
軽々しく肩とか抱いてこないでくれませんかね?
無駄に間合いを詰めてくるとか、ちょっとなれなれしいにも程がありますが?
(なーんてゆーか、あの子とは真逆も真逆な男よねえ)
ランチのパスタをぱくっと頬張りながら、ふと思い出してしまった顰め面。
わっかい癖して眉間にぎゅうぎゅう皺寄せて、いっつも小難しそうな顔をしている冬獅郎少年のことをふと思い出す。








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あきゅろす。
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