[携帯モード] [URL送信]
続・猛毒いちごシロップ【side日番谷その2】


「っと、とりあえず!今からご飯の用意するから、上がってちょっと待っててよ」
「は?なんで?昨日の内に準備したって言ってなかったか、お前」
「これからご飯炊くんだし、サラダとか付け合せだって用意したいのよ!」
「ふーん、そりゃあ楽しみだ」

にんまり笑った俺へと向けて「うぬぬ」と唸った松本に、いいからあっちでテレビでも見ててと部屋の中へと押し込まれる。
何度か通った場所ではあるが、こうして部屋へと上げてもらったのは、これが通算三度目になる。







付き合い始めたその日から、コンビニで鉢合わせた後は松本の住むアパートまでの道すがらをふたりで辿るようになった。
社会人の松本と、高校生のガキの俺とじゃ平日一緒に出かけることもままならない。
土日は休みで間違いねえが、俺は俺で部活があるし、松本も平日溜め込んだ家事を片付けたいと言っていたから、ゆっくり会えるのはせいぜい日曜ぐらいのものだろう。
仕方ないのは承知の上だが、やっぱり少し物足りない。メールや電話ばかりじゃ味気ない。
…けど、せっかくこうして『コンビニ』って接点があるんだ。
会えた時には極力一緒に居たいと思ったから、「家まで送る」と毎回言い張って、我が物顔で隣に並んだ。
時に手を取り、指を絡めては、年甲斐も無く照れる女の横顔に、ひとりひっそり悦に浸った。
アパート前まで松本を送って、また再び来た道を戻る俺へと、
「あの…せっかくだからお茶でも飲んでく?」
そんな誘いの言葉が初めて掛けられたのは、先週初めてふたりで出掛けた、その帰り道でのことだった。
無難に映画でも見に行きますかと、シネコンの入った近場の大型ショッピングモールまで足を伸ばして、映画の後で飯食って、ちょっとだけテナントを物色してから夕方過ぎに帰路に着いた。
その際「送る」と言い出した俺と松本の間でひと悶着あったのは言うまでもない。
何しろ今日が初デートだったと云うのに、言うに事欠いてあンのやろー、「ここからだと逆方向になっちゃうし、このまま現地解散でいいわよう」などと、なんとも味気ないことを言い出しやがったのだ。
さすがにムカついて、意地張るみてえにその日もアパート前まで送るに至った。
正直、『好き』の比重が俺と松本じゃ違う気がして、ちょっぴり凹んでもいたのだけれど。
いつものように、そのまま「じゃあな」と踵を返して帰ろうとして。
「まっ…待ったあああああ!!」
と、いきなりデッカイ声で呼び止められた。
服の裾をむんずと掴まれていた。
唖然と振り向いた俺へと向けて、真っ赤な顔して挙動不審にも「上がって行くか?」と問い掛けられて、頷かなかった筈もない。
(むしろ、いったい何時になったら部屋に上げて貰えるのか、と。心待ちにしていたのはここだけの話だ)
そうして漸くのこと部屋の中へと招き入れられて、紅茶を淹れて貰ったそのついでに、ちゃっかりくちびるまでをも頂いてきた。
誰もそんなことまでしていいなんて言ってない!だとか、子どもの癖に手が早い!だとか。
赤いくちびるを更に腫らせて松本がぶちぶち文句を言っちゃあいたが、部屋に男上げた時点で同意したも同然じゃねえの?と基本思ってもいるので、元より耳を貸す気は毛頭無く。
思う存分やわらかなくちびるを、人目を気にすることなく堪能した。
尤もさすがに翌月曜日、いつものコンビニで顔を合わせた際は、部屋まで上げては貰えなかったのだけれど。
(まあ、当然っちゃあ当然…か)
それでもいつものようにアパートまでの帰路を共にした。
少し照れ臭そうな顔をしていたものの、手を繋ぐことは拒否られなかった。
会話も至っていつも通り。
じゃあまた明日ね、と。
笑って俺へと手を振った。
但し、すぐさまメールが送られてきて、開いて中を確認したら『狼さんはおうちに入れられません。ダァメ(乂д・`)』とあったものだから、思わずその場で噴出していた。
そんなつれない締め出しを食らった俺が二日ほどインターバルを置いて再び部屋へと上げて貰えたのは、アパートへと向かう道すがら、突然の通り雨に見舞われたからに他ならない。
結構な勢いで降り出したせいか、制服はずぶ濡れ、しかもすぐに止む気配は無いとくれば、さしもの松本も俺を部屋へと上げざるを得なかったものと思われる。
送り届けた玄関前で、暫し逡巡した後で。
「…タオルと着替え、貸してあげるから寄ってって」
ついでにあったかいお茶も淹れたげる、と。
切り出したアイツに下心なんてものがあったなどと、さすがに俺も思っちゃいない。
但しこちらにはそれ相応に下心があったので、タオルと少し大きめのTシャツ一枚を借り、更にはお茶までご馳走になったそのついでに、当然のように二度目のキスへと持ち込ませて頂いた。
(っつーかだな、ひとがいいっつッてんのに俺の傍らに膝立ちになって、濡れた俺の髪をゴシゴシ拭ってやがったんだぞ、コイツ!)
なんたる無防備。
完全なるガキ扱い。
腹が立つより先に呆気にとられた。
否応にも視界に飛び込む、傍らに迫る、着替えを済ませた松本の胸。
…ナニコレ?もしかしなくとも誘われてんのかよ、俺?
距離は近けえしサラサラ金髪が顔にかかるし、髪が湿ってるせいかシャンプーの匂いがやたらと鼻腔を衝いてくるしで、一瞬にして抑えが利かなくなった。
本能の思うがままに腕を伸ばして細い腰を抱き寄せていた。
「わっ!コラ、あんたまた…!ちょ…っ!んーーーっっ!!」
ギョッと慄く松本の声は、だがすぐにも俺にくちびるを塞がれ意味を為さなくなった。
甘い吐息へとすり替わり、俺の背中に腕を回して寄り掛かるから。
アレこれもしかしなくともイケんじゃね?などと一瞬、不埒な妄想が脳裏を掠めたのは言うまでもない。
ざあざあと降る雨の中、交わす二度目の深いキス。
だが、惜しむらくは床へと押し倒したところで邪魔が入ったことだろうか?
――松本の携帯が鳴ったのである。
相手はあのバーベキューを主催した、松本狙いと思しきあの男だ。
どうやら週末の飲み会の誘いらしく、金曜の夜は会えないことが確実となった。
(っつーか、もしかしなくともまだ諦めてなかったのかよ、あの野郎!!)
聞けば、松本の働く部署とあの男の所属する営業二課とやらの『恒例親睦会』とのことらしいが、どうせアレだろ?また茶番だろ?
松本狙いのあの男が、影で糸でも引いてんだろ?
ガキの俺ですらわかるからくりを、だがこのバカは微塵も理解してないらしく、久々の飲み会とやらにやたらめったらと浮かれている。
(とゆーか、アレか。それほどまでにあの男のことは眼中に無いってことなのか?)
それはそれで余りにもヤツが不憫過ぎる気がしないでもなかったのだけど、だからと云って松本と付き合い始めた後までも下手に粉かけられんのも業腹だったし、正直今この瞬間邪魔されたのも気に入らねえ。
しかもどうやら松本のヤツ、俺とのことを今以って誰にも明かしてないとか抜かしやがるから、それもそれで面白くねえ。
「えー、彼氏が七つも年下なんてフツー言えっこないでしょ!そんなのあたし、完璧『犯罪者扱い』じゃないっ!!」
ムリムリムリムリ!!と、頑として首を縦に振ろうとしない松本は、だが確かにガキの俺よか遥かに大きなリスクを背負って俺と付き合っていることに間違いはない。
さすがに俺もそこは充分心得ていたし、考慮しないわけでもなかったけれど、…だけれども。
(だからって、どう考えても面白くある筈もねえ)
「つーか、マジで金曜飲み行くの?」
「んー…、親睦会だしね。いちお顔出しておきたいじゃない?」
ゴメンね、と。
至極申し訳なさげに口にして、一応ご機嫌取りのつもりなのか、一度はこの腕の中から抜け出した癖に自ら俺へと腕を伸ばす。
さっきのキスの続きとばかりに、俺へとくちびるを押し当ててくる。
――だからその罪悪感へと付け込んだ。


「なら、埋め合わせってことで、明日の夜もこうやって会いてえんだけど」
「っあ、明日あ?!」
「ん。どうせ土曜は俺部活あるし、日曜まで会えねえとか長過ぎて無理」
「む…無理って、アンタ…」
「いいじゃん。部屋、寄らせてよ」
「ん〜〜〜…明日、明日かあ。まあ、今はそんな仕事も忙しくないし、多分明日も定時で上がれると思うけど…」
「じゃあ、決まりってことで」
「あ、ねえねえそれじゃせっかくだから、うちで夕飯食べてく?」
「は?何、飯なんて作れんの?松本サン」
「っっ出来るわよ、一応だけど!!」


かっわいくなーい!!と剥れる女をもう一度、この腕の中に抱き寄せる。
膨れっ面へとくちびるを寄せる。
三度目四度目ともなればさすがに抵抗されることもなかったけれど、それでも直前の会話が会話だった為か一瞬キロリとねめつけられた。
「…かわいくないっ!」
「ハイハイ、さーせん」
笑って往なして、先ずはくちびるを啄ばんで。
戯れに、頬に、額に、耳たぶに。
時に首筋に俺のくちびるが触れるたび、膨れっ面から一転、くすぐったいと身を捩り「あはは!」と笑うあんたはどうにも気付いちゃいないようだけど。
こう見えて案外俺だって、必死だったりするわけですよ。
何せ七つも年下のコーコーセーのガキなんでね。
結構いっぱいいっぱいだったりするわけですよ。
ぶっちゃけ俺の立ち入れねえ、俺の与り知らないところで他の男と…例え会社の付き合いだろうと会って飲んでるとかって、結構面白くなかったりするし、正直不安にもなるわけですよ。こう見えて。
…だから、まあ。
ひとつ、先手を打つに越したことはねえかな?などと。
ちょっと算段してみたわけで。
腕の中、すっかり機嫌の直ったらしい松本が、くすくすと笑いながら俺へと問う。
「で?なに食べたいの?
「てか、逆に聞くけどなに作れんだよ」
「うーー……、パスタ・とか?」
「ああ。茹でて掛ける的な?」
「っ!!じゃ、じゃあ、…カレー!」
「あー、まあ…いんじゃね?」
ベタっちゃベタなチョイスだけどな、と笑ったら。
涙目で以って「うるさい」と、ぽこんと頭を小突かれた。
「あんた、ホンット可愛くないっ!」
「でも、嫌いじゃねんだろ?俺のこと」
にんまり笑って問い掛けたなら、ぐっ…と声を詰まらせてから、ぱあっと赤く染まる頬。
生憎答えは返らなかったのだけれど、その表情があんまり雄弁過ぎたものだから、最早笑うより他は無い。
――窓の外、既に雨は上がっていて、そろそろ夕闇が辺り一面を覆い出す。
濡れたアスファルトの匂いがする。
「…そろそろ帰る?」
「ん。またな」
最後にもう一度だけ、くちびるを重ねて息が上がるまで舌を絡める。抱き締める。
狂おしいまでの劣情に駆られる。
出来ることならこのままこの場で抱き潰したいとさえ思う。
けれど荒れ狂う身の内の熱情全てにきっちり蓋をして、後ろ髪を引かれる思いで今日のところはくちびるを離す。
――けど、明日は抑える気更々ねえし。
耳元でそっと嘯けば、ぱちくりと瞬く空色の瞳。
「…へ?」
どう云う意味?と。
小首を傾げた松本が、意味を知るのは明日のこと。




(身体中、至るところに鬱血の跡を残したまんま飲みに行けるもんなら行ってみろ)





end.


本編松本サイドで、日番谷の手が早いの件をちょっと追及してみたいなと思って妄想殴り書きw
と言いつつ相変わらずの尻切れ展開、相変わらずの痒いところに手の届かない終わり方と大変申し訳ございません;
いやでも基本そこに至るまでの、『何があったか』を書きたいひとなので^^;後はご想像にお任せします(笑)
因みにここに至るまで、付き合い始めてから十日あるかないかだと思われます。
早いか普通か遅いぐらいかはわからんですが、とりあえず松本の心情的には早かったらしいですお!と付け加えて終わりたいと思います。
しょーもない妄想に長々お付き合いありがとうございましたああああ!!


[*前へ]

6/6ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!