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続・猛毒いちごシロップ【side松本その2】


あの日――バーベキューのあった日に、雛森の従兄弟だと云う日番谷少年とメアド交換をしてから既に、メールのやり取りは何度かした。
…と言っても、無愛想極まりない見掛け通りに、送られてくるメールは実に簡潔で素っ気無い。
だけどレスポンスは比較的早いから、嫌がってるってわけでもなさそう?…なんて思って、気が向いた時に「寝不足、眠い〜」だとか、「残業飽きたわ、帰りたい〜」などとくだらないメールを送ってみた。
平日の昼間、授業中はさすがに向こうも忙しかろうと、メールのやり取りは主に夕方以降。
今のところメールが返って来なかった試しはない。
後はコンビニで鉢合わせた際、それとなく一緒に居るようになった。
ヨッ!って感じの挨拶に始まり、どちらからともなく近寄って、ちょっとした立ち話に興じる。
時に昨夜のメールについて言及される。
例えば、夜更かしばっかしてんじゃねえぞ・とか、仕事忙しいのか?とか。
時間にすれば、せいぜい五分かそこら?
じゃあまたな、って手を振って、あの子はあの子ですぐにも友達の輪に戻っていくし、あたしはあたしで買い物を済ませて早々コンビニを出る。
そんなことが何度か続いた。繰り返した。
それはそれで楽しかったけれど、ちょっと何かが物足りないな・なんて思い始めたその時のことだ。
…多分、七度目にコンビニで鉢合わせた時。
その日あたしの帰りはいつもより遅く、時計の針は既に八時を回っていた筈だ。
『今日、遅いのか?』
そんなメールが夕方過ぎにあの子から届いて『残業よ、残業!ちょー残業!』と送り返したばかりだった。
ああ、こんな疲れ切った日にこそあの子に会って癒されたいのに…なんて思いながらとぼとぼと、駅を出たあたしは重い足取りで家路を辿った。
いつものようにコンビニに寄って帰ろうと思っていたその矢先、不意に名前を呼ばれて振り返った。
「…え?」
「よう。遅かったな」
そしたら居るじゃない。何でかあの子が。
コンビニに向かう途中の公園に、あの子の姿があるじゃない。
「あ…あれ?なんでアンタこんなとこに!」
しかも制服だ。帰ってないの??
てゆーか、こんなところで何してたのよ、こんな時間まで!
「あ、もしかして…デートだったとか?」
だって公園だ。こんな時間だ。
しかもここってば学校の近くだし、案外カノジョと会ってたのかな?…なんて、勘繰っちゃうじゃない。シチュ的に。
うわ、でもそうかー。彼女いるのか。公園デートかあ。
いいないいな、甘酸っぱいな。
てゆーかそうか、高校生か。まだこの子。
そりゃああたしとは世界が全然違うわよね、と。
いい年こいて高校生相手に失恋気分でちょっぴり凹みかけてたところを、怒声で以って「違げえ!」と遮られた。
眉間に皺寄せて苛立つお顔がなんだかちょっぴり恐かった。
「え、あ…違うんだ」
「おー。デートするような相手なんかいねえよ」
あ、そうですか。それはそれは大変失礼しました、と。
口にする暇も無く取られた手。
(あれ?)
いつぞやのバーベキューでの買出しの帰り道を髣髴とさせる行為に、思わずドキンと高鳴った胸。
そっとあたしの手を取って、何故かきゅうと握り締められた。
それも指先を絡めるように。
(ねえ、これってもしかしなくとも恋人繋ぎ?)
でもでも何で?あたし、なんでこの子に手とか握られちゃってんの?
別にあの時みたいに酔ってもないし、況してやこんな唐突に…。
疑問は幾らもあったけれども、やっぱり繋がれた手を振り解こうとは思えなかった。
むしろ繋いだ手からじんわり伝わるあの子の熱が嬉しくて、残業の疲れも重い足取りも吹き飛ぶほどにはときめいていた。
「…コンビニ、寄んの?」
「あ、うん。明日のヨーグルトだけ買ってこうかなって思ってたけど…」
「ふうん」
「でも、いい…かな、別に」
「は?なんで?ヨーグルト、買わねえの?」
「や。そう、なんだけど…」
でもでもそしたらここでお別れでしょ?手だって離されちゃうんじゃないの?と思ったから、慌てて否定したんだけれど。
逆にあの子は眉を顰めて首を傾げた。
…へんなヤツ、って。
へんなヤツって言いながら、繋いだあたしの手を引いた。
そうして一路コンビニを目指したのである。
(うえええええええ!?)
ちょ、いいの?!これっていいの?!
だってあたし、大人だよ?!社会人だよ、OLですよおおおおお!
あんた学生でしょ、私服じゃないでしょ!
学生服だって着てんじゃないよ!!
なのにあたしと手ェ繋いだまんま、ガッコ近くのコンビニに入るとか…マジですかああああ!
躊躇ったのは当然で、思わず腕を引きかけた。
さすがに手を離そうとしたのだけれど、逆にぎゅうと強く握られて、そのままずるずると引き摺られるようにコンビニまで連れて来られてしまったではないか!
「ちょ…、あんた、手!」
「で?ヨーグルトって、どれ買うんだよ」
…って、あたしの話はスルーですか。そうですか。
半ば諦め気味に店内に入って、そそくさとデザート飲料コーナーまで足を運ぶ。
うう、店員さんの目が痛い。(ような気がする)
だけど肝心のこの子はどこ吹く風。
しれっとした顔であたしと手を繋いだまま、あれやこれやと話しかけてくる。
「てゆーか、何?あんたヨーグルト嫌いなの?」
「酸っぱいのが好きじゃねえ」
「そんなこと言ってるから背、伸びないんじゃない?」
うぷぷと笑って「美味しいのに」とからかったなら、さすがにムッとしたのかヤケクソみたいにあたしが選んだのと同じヨーグルトをひとつ手に取って、さくさくレジへと向かおうとするではないか!
「え?なに、アンタも買うのそれ?!」
「悪リィかよ」
や、悪くはないですけども…。
よくわからない。てゆーか、全然わからない。
いったい全体何がしたいのか微塵もわかりません、あたし。
だけどちょっぴりこそばゆくはあった。
好きじゃないって言った筈のヨーグルト。
別にヨーグルト食べたからって背が伸びるわけじゃないことぐらい知ってるだろうに、無理して買おうとしてるとか。
敢えてあたしが「お気に入り」って言ったヤツを選んじゃうとか、どんな意味があるのよ?って、思っちゃうじゃない。
しかも今以って繋がれたままにある右手。
さすがにレジでは放されたけれど、店を出る前にまた手を取られた。
…多分、どこのバカップルだよとか思われてそう。
しかもすんごい不釣合い、倫理とモラルを問われてそうだなと思わないでもないんだけれど、やっぱり繋いだ手を振り払うことは出来なくて。
「家、どこ?送る」
挙句、ものすんごい仏頂面で切り出されて、――別にいいわよ・なんて言葉は返せなかった。
いやいや、あんたの方こそ時間いいの?と思ったけれど、どうあってもあたしを送ってからじゃなきゃ帰らねえ!的な意気込みを感じてしまったから。
だから代わりに「ありがと」って、手を握り返した。
もう一歩だけ、距離を縮めて肩を並べた。
そうしてコンビニを後にして暫くのことだ。
アパートまでの道すがら、ちょうど会話が途切れたところであの子が口にした。
「…好き、なんだけど」
そんな風に真っ赤な顔で切り出されて、――冗談でしょう?なんて、笑い飛ばすことも出来なくて。
街灯の下、思わず立ち止まってあの子の顔をじっと見つめて。目が合って。
「なあ、俺と付き合ってくんねえ」
照れ臭そうに口にした言葉。
ダメ押しのようなそのひと言に、釣られたように真っ赤に染まった熱る顔でこくこくと、ただ頷き返すことしか出来なかったんだ。




end.


こんな上げ方していいのかもわかりませんが、某所に置いた『高校生×OLな日乱パラレルコネタ』の後日談です。
朝方目覚めたついでにふと思いついて、「あ、すっげ続き書きたいかも…」と思って殴り書き(w;
全然松本誕に関係ないネタですみません;;そして意味わからんひとは本当すみません;;
どこ置こうか迷ったんですが、とりあえず、ひとまずここにぶち込んでおきます(笑)

…と云うあとがきで、以前までは『SSS』にぶち込んでありました^^


お題:alkalism

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あきゅろす。
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