[携帯モード] [URL送信]
【side日番谷】


乱菊さんてね、すっごく綺麗だし美人だし、仕事も出来る先輩なのに、そーゆーのぜんぜん鼻に掛けたところが無くて、本当に素敵なの!憧れなの!

四つ年上の従姉妹から、事あるごとに聞かされた、配属先の女のセンパイとやらの話。
――曰く、金髪碧眼のナイスバディなイイ女。
おまけに仕事も出来て人当たりも良く、なのに鼻持ちなら無いところもなくて、気さくで陽気。
雛森が「憧れ」と言って憚らないそのセンパイとやらが、よもや『彼女』だったとは思わなかったから、言葉を失くした。
思わず凝視してしまったのは、ここだけの話だ。
「はじめまして、松本でーす!」
だがどうやらその口振りから、向こうは俺のことなど何も知らなかったのだ、と。
歯牙にもかけていなかったのだ、と。
改めて思い知らされたことに落胆をした。
打ちのめされもしたのだけれど、顔に出すのも癪だったから、知らぬ存ぜぬを装った。
倣うように、はじめましてと作り笑顔で返してやった。
知らんぷりを通していた。
雛森曰く、今日のバーベキューは会社の仲いいグループでの集まりで。
だから気兼ねなく遊びにおいでよと、半ば強引に誘い出された。
(けど、どう考えても違くねえか?)
どう見積もっても仲間内でのバーベキューってだけじゃねえだろ、これ。
何しろひとり張り切って肉焼いてるあそこの男、どう見てもあの女狙いじゃねえか。
どっからどう見てもあの女に、イイ顔見せたくて必死じゃねえか。
そんで雛森以外の他のヤツらは、どう考えても承知の上…って感じじゃねえか。
(つーか、なんか…面白くねえ?)
楽しげに笑う女と、デレデレと脂下がる男の姿を見ていると、なんとゆーか…腹が立つ。
だからやっぱり来なきゃよかった。
雛森なんぞの口車に乗せられて、のこのこバーベキューくんだりまで出かけてくるんじゃなかった、と。
後悔していたのだけれど。

「なあに、ちっとも箸が進まないのねえ、アンタ。ほら、あたしの焼いたお肉分けてあげるから遠慮しないで食べなさいって!」

などと言ってはこの女、やたらめったら俺に構ってくるではないか。
しかも、アレだ。
肉、くれんのはいいけど焦げ過ぎだろ。
ムダにガッツリ焼き過ぎだろ、コレ。
おまけに野菜は生かよ。
焼けよ、ちゃんと!
つか、良く見てから皿に入れろよ!
それともアレか?
嫌がらせか?!
ガキだと思ってバカにしてんのか?!
そう思ってムッと顔に出もしたのだけど、軽い酒精を漂わせた女の顔は、至って無邪気で悪びれたような素振りもない。
だから思うがままに文句を口に出したなら、目を丸くして「可愛くない!!」とムキになって詰られた。
…なんだ、コイツ。
雛森の話じゃ、妖艶美女で仕事も出来る、大人のオンナ…なんだよな?
つーか、コンビニで見かけてた時の感じも、よくよく思い起こせば確かにそんな雰囲気だった。
あんまりイイ女だったからか、どこか近寄り難いような気がした。
遠くから眺めてるだけで精一杯だった。
…けど、酔ってるからなのか今の『彼女』は恐ろしく言動がガキくせえ。
なによう、あたしの肉が食べられないっての?!
などと喚く女のどこが妖艶なものか。
どう見ても半生のたまねぎを食って、辛い辛いと悶える女のどこが大人なもんか。
顔にそぐわぬ幼稚な言動。
ガキの俺相手にムキになる。
拗ねる。
笑う。
また剥れる。
ムカつくんなら放っときゃいいのに、懲りずに俺なんぞに絡んでくる。じゃれ付いてくる。
俺相手に見せる表情は実にさまざまで、コンビニで見ていた大人の女の澄ました『顔』とは全然違う。
――ガキくっせえ。
(けど、こっちの方が断然イイ)
その証拠に、さっきから雛森の目は驚きに丸くなりっぱなしだ。
コイツ狙いと思しきあの檜佐木ってヤツも、ちょっと「意外」って顔をしてこっちを見ている。
酷く羨ましげな顔をしている。
それがどうにも俺の優越感を擽った。
だから気付けばいつしか、目で追っていた。
みんなが飲み食いしている輪を離れ、ひとりふらふらと売店の方へと歩き出すその背を追いかけていた。
ふわふわとしたその足取りに、懸念と多分の下心混じりに手を伸ばす。
「飲み過ぎだ、酔っ払い」
ほっそりとした指先を、捕らえて強く指を絡める。
照れ臭さに顔を見ることも出来ないままに、腕を引く。
振り払われても無理はない。
況してや「いきなり何よ!」と驚かれたところで言い訳も出来ない状況なのは承知していた。わかっていた。
それでも触れずにいられなかった。
そんな強引に繋いだ筈の指先が、まるで応えるように握り返されて…知らずドクリと跳ね上がる鼓動。
横目にそっと窺い見た先に、ほんのりと淡く頬を染めた横顔を目に留めて。
――多分、その時にはもう、恋落ちていた。






end.


某所に長いこと上げていたパラレルとか。やっとこっちに引っ張って来れました(笑)
次ページより更に後日談とか^^


お題:alkalism

[*前へ][次へ#]

4/6ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!