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【side松本】


「はじめまして、松本でーす!」
…なあんて初対面の振りとかしてたけど、ホントは知ってた。あの子のこと。
仕事帰りに時々立ち寄るアパート近くのコンビニに、部活帰りなのか近所の空座一高の男の子たちが良くたむろっているのだけれど。
その中に、雛森の従兄弟だと云う日番谷少年の姿もあったのである。
ぎゃあぎゃあとおよそ喧しい高校生の集団の中にあって、恐ろしく物静かな佇まいのその少年は、何故かあたしの目を惹いた。
銀糸に緑眼、少しばかり背は低めではあるものの、なかなか整った容姿をしている。
けれど目付きの悪さと眉間の皺が、どうにもこうにも近寄り難いオーラを醸し出していて。
何となく…周囲から一目置かれているような空気が見て取れた。
以来、コンビニでかち合うたびに、あたしはその少年を目で追っていた。
それこそ、彼是一年余りもの間、こっそり覗き見ていたのである。
(よもや雛森の従兄弟だとは思わなかったけど!)
だから驚いている。この偶然を。
こんなところで会えてしまった運命を。
…私服、初めて見るかも。
てゆーか、好きだな、やっぱり。服のセンスも。
カッコイイよね、可愛いよね。
いやもうぶっちゃけ無駄にときめいてますけど、何か?!
「ども。はじめまして」
――そう言って。
ぺこりと下げた瞳に、『あたし』が映ることは無い。
驚きひとつ見られなかったから、やっぱり向こうはあたしのことなんて、これっぽちも意識してなかったんだろう。
きっとこの一年余り、コンビニで時折すれ違っていたことにだって気付いていないに違いない。
(まあ、当然よねえ?)
そりゃあ、こーんな幾つも年上の女、興味なんてないわよねえ。
眼中になんてないわよね。
同じコンビニに一年通ってたところで、これっぽちも気が付かないわよね。
…だって高校生なんだもの。
そう思っては、心密かに落胆をして。
けれどやっぱり嬉しくて。
用もないのにちょっかいを出す。
邪険にされて、また傷付いてる。
(バカみたい)
なによう、あたしにばっかりやけに冷たいじゃない?
やけに突っかかってくるじゃない。
最初の内こそ「松本サン」って呼んでいた癖に、気付けばすっかり呼び捨て扱い。
あたしひとりだけ「松本」って呼ばれてる。
(かっわいくなああああい!!)
ええまあ、一応顔で笑って心で泣いてますけどね?
あんまり面白くないものだから、あたしもあたしで嫌がられるのを承知でちょっかい出しまくってますけどね?
ヤケッパチでべったりと、纏わりついてやってるんだけれども。
(ええっと、なんで今あたし、この子と手なんて繋いでるワケ??)
ビールが少なくなって来たからと、ふらり売店を目指してひとりその場を離れた。
ちょっと頭を冷やそうか?…なんて思っていたのだけれど。
何故かあの子が追い掛けて来た。
そうして肩を並べて売店までの道のりを共にした。
ずしりと重いビニール袋を「…持つから」と。
取り上げられて、何故か手のひらまでも掬い取られた。繋がれた。
指先、を。
絡め取られて、我に返って呆然とした。
頬がかあっと熱く火照っていた。









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あきゅろす。
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