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「松…本、さん?」
「あら、吉良じゃない!」

梅雨も明けた、七月半ばの週末の昼下がり。
大学時代の友人達と集まることになり、待ち合わせた駅前で僕は、信じられない光景を見た。
私服姿の松本さんと、あの日バーベキューで一緒だった日番谷くんが、何故か一緒に歩いていたのだ。
しかもその手はしっかり繋がれている。
雰囲気は見るからに恋人同士だ。バカップルだ。
まるでノミの夫婦のようだ。
(と云うか、これは…いったいぜんたい?)
恐らく空気を読んだのだろう。
「俺、ちょっと向こうで切符買ってくるわ」
そう言い残して日番谷くんが、僕へと小さく頭を下げて券売機へと歩き去るのを見送って。
未だ唖然とする僕の目の前で、どこか照れくさそうに松本さんが、
「…あのね、内緒にしてたけど。実はあたし達、付き合ってんのよ」
と、目から鱗にのたまったから仰天をした。
それもあのバーベーキューのあった日に、松本さんからメアド交換を申し出て、その後何度かふたりきりで会っていたのだと打ち明けられてまた驚いた。
「て、ゆーか。あんな年下が好みだったんですか、松本さん!!」
「っち、違うわよ!だってあの子、年下の癖に生意気だし、口は悪いし愛想は無いし、あたしのこと…『松本』って呼び捨てにしたし、ほーんと可愛くないんだから!言っとくけど、ぜんっぜんタイプなんかじゃないわよっ!!」
全力で否定にかかる松本さんに、「…なら、なんで付き合ってんですか」と呆れ眼に突っ込めば、途端むうっと眉根を寄せる。
「でも…」と、ほんのり頬を染めて惚気出したから言葉を失くした。
「あたしの焼いた焦げたお肉とか焼きそばとか、何だかんだでぜーんぶ食べてくれたし、笑うと結構可愛いし。途中こっそりビールの買い出しに出かけたあたしのこと、気付いて追っかけて来てくれたし、荷物持った挙句手とか繋いでくれちゃうし、七つも年下の癖して『飲み過ぎだ、阿呆』って、大人びた怒り方してくるし!なあんかねー、いちいちあんまりツボだったから、すっかり絆されちゃったのよう!」
ほんとのほんとに年下なんて、ぜーんぜん趣味じゃないんだけどね、と。
あくまで認めるつもりはないようだけど、ほんのり頬を染め笑う松本さんは、見るからに恋する乙女みたいな顔をしている。
だから、何と言うか…きっと、口では何と言おうとも、松本さんの方が押して押して押しまくったんじゃないかと思われて。
のちに檜佐木先輩が受ける絶望の大きさと、同時に我が身に降りかかるであろう災難を思い、正直頭が痛くもなった。
(自棄酒、合コン…とかで済めば御の字だけど)
ああ、出来ることなら穏便に。
若しくは檜佐木先輩にだけはバレないようにしてくれないかな、松本さん。
てゆーか、檜佐木先輩…ショックで自棄起こしたりしないといいんだけど。
「何はともあれ、松本さん。くれぐれも犯罪者にだけはならないで下さいね」
なんたって相手は未成年、それも高校生なのだ。
案外すぐに飽きが来て、フリーになる日も近いかもしれない――そうすれば、檜佐木先輩が鬱陶しくも落ち込む姿を目にしなくても済むかもしれない。僕がとばっちりを食うこともないんじゃないか――との淡い期待を込めて軽口で締めてみたのだけれど。
「はァ?!なによう、それっ!誰が犯罪者だっつーの!てゆーか、むしろ先に手ェ出してきたの、あっちだから!ああ見えてあの子、めちゃくちゃ手ェ早いしものすっごいえっちいことするんだからねっ!!」
ねえ、ちょっと!今どきのコーコーセーってみんなこんななの!?って、あたし本気で泣きそうなったわよ!!…なんて。
顔を真っ赤に喚く松本さんに、…嗚呼。
すみません、正直僕の方が泣きたい気持ちでいっぱいなんですが、今。








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あきゅろす。
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