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花食みの夜 1


※「常花散華」の後日談。
念願叶って大人になった竜神日番谷と松本の、一見日本昔話風なパラレルです。
前作とは打って変わって、いちゃこらしてるだけの駄文です。



あれ?これって『お清め』とどこが違うのかしらと思わず首を傾げてしまったのは、――祝言の夜。
初夜の褥の中でのことだった。
まだ幼い子どもの見かけをしていた竜神の冬獅郎様と、いずれ夫婦となる約束を言い交わしてから、およそ五十年。
今やあたしを見下ろすまでに大きく育ったあのひとと、漸く祝言を挙げるに至った。
供物として捧げられただけの人間のあたしが、あのひとから竜の血の施しを受けてどうにか命を繋いで、更には妻にと望んでもらえた。
どこにも行くな、傍に居ろ。
俺に永遠の貞節を誓えとまでも言ってもらえた。
…まるで夢のようだと思った。
とても幸せな気持ちで今日を迎えたあたしだけれど、それでも初夜を目前にしたこの時ばかりは、さすがに戦々恐々。
緊張に緊張を重ねてまくっていたのだけれど。
(ええっと、確か閨ではとにかく冬獅郎様に全てお任せすればいいのよね?)
慌てず、騒がず、痛がらず――なんて仰っていたのは確か、遥か南方の海に住まう卯ノ花様…だっただろうか。
祝言を終えたばかりの宴の席で、にっこり笑ってあたしを手招きをされて。
あの朴念仁の傍に居たんじゃ作法も心構えも何も、きっとご存知ないでしょうからと言って、『初夜の心得』なるものをとくと語って聞かせてくれたのである。
けれど内容は実に抽象的なものばかり。
そもそも、慌てず騒がずはともかくとして、…痛がらずって何ですか?
あたし、初夜で冬獅郎様にどんな酷いことされちゃうんですか!?と、宴の席で真っ青になり更なる教えを懇願したのは当然のこと。
なのに卯ノ花様ったら、焦るあたしが余程おかしかったのか、
「それは後でのお楽しみですわ」
無責任にもそう言い放つと、コロコロ笑って軽く往なされてしまった。
ゆえに、どうにもこうにも不安ばかりが募ってしまう。
ああもうホントどうしよう!?って、お布団の上で半べそ掻いていたところで、
「おう。待たせたな」
湯浴みを済ませて寝所に入ってきたあのひとに、すぐにも肩を抱き寄せられてくちびるをはむと塞がれた。
そのままころりと布団の上へと押し倒されて、思わず「ひっ!」と身を硬くしたのだけれど。
「なに緊張してんだ、今更お前は」
冬獅郎様ときたら笑うばかりで、ちっとも臆した様子は無い。
況してや今から何をするのか具体的に告げないままに、「ああ、やっと祝言にまで漕ぎ付けた」と、ひとり感慨に耽るばかり。
(いやいや、そりゃああたしだって嬉しいですけどもっ!!)
けれど初夜の何たるかすらもわからぬままに、これから痛い思いをするのかと思えば浮かれてばかりもいられまい。
そんなあたしの今にも挫けそうな心の内を知ってか知らずかあのひとは、「今更初夜ってのもアレだが、まあ…気分は確かに盛り上がるよな」と、ご機嫌にもわけのわからないことを口にしている。
そうして嬉々とした顔であたしの夜着へと手を掛けたから、慌ててその手を制したのだった。









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あきゅろす。
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