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3.



「ン・なこと、言ったって…出来るかどうか、わかんねえ、ぞ」

既にすっかりその気になっているのか、ふふっと愉しげに笑った松本は、随分と簡単に言っちゃあくれるが…。
正直。自信は…まるで、ない。

(当たり前、だ。餓鬼なんだから)
(そんな知識、皆無に等しい餓鬼なんだから。しょうがねえだろ)

それでもこうして一緒に居れば、松本に触れたい…触れてみたいと云う『欲求』だけは否応なしに湧き上がるから困るのだ。


「んー…。でもあたし、もし最後までできなくっても、全然気にしないけどなあ」
目線を白い天井に走らせてぼそりと呟く松本は、いったいどこまで『本気』なのか。
最後まで出来なくても気にしないだと?冗談じゃねえ!

「…つか、俺が気にする」

ぶすくれて言った俺をきょとんと見つめて。それから、ぶはっ!って遠慮なしに噴き出した松本は。
「可愛いー!!」って。
(俺からすれば)豪く不本意な言葉を口にしながら、再び俺の小さな身体をぎゅうっと抱き締めた。
これじゃまるでペットか人形扱いだな、と。こっそり溜息を吐いた俺の耳元で、松本が「嬉しいな」って、呟いたのはその時のことだ。

「って、何がそんなに嬉しいんだよ?」
良くわかんねえなと思いながら、とりあえず潔く抵抗を諦めた俺は、大人しく松本の胸に頭を預けた。
まるみを帯びた、やわらかな胸。
伝わる体温。
脈打つ鼓動。
そして、はたと気付いた違和感。
(いや、なにが…っつーワケじゃねえんだが)
だけど、確かに何かが違った。いつもとは。
そんな『違和感』の正体を俺が知るのは、このすぐ後のことだった。

「えー!そりゃあ、すっごく嬉しいわよう。あー、冬獅郎もやっとあたしのこと『女』として意識してくれたんだなー、とか。色仕掛けが通じるぐらい成長してくれたんだなー、大人になったんだなーって。すっごくすっごく嬉しいんだから、今!」
「つか、お前…俺相手に色仕掛けとかしてたのか?」

そりゃあ初耳だなと驚く俺に、「やだ、もちろん今だってしてるわよ」って。
ほら、って。大きく晒した白い胸元に手をやって。
すぐ目の前でパジャマの襟ぐりをぺろんと捲って見せた松本に、俺は思わず絶句した。
…つか。
「おっ、ま…つけてねえのかよ、下着!!」
それが、さっき感じた『違和感』の正体だった。
(ブラ…つけてねえし、コイツ!)
どうりでいつも以上に、やたらとやわらかく感じた筈だ。
おまけに捲った襟の間から、一瞬だけ…見えちまった。胸の突起が。
「信じらんねえ…」
餓鬼相手に色仕掛けとか、ホントどーしようもねえ女だ、コイツ!!
えへへと悪びれず笑う女に、二の句が継げず、固まる俺。

だけど、もし。

ここで、嫌だ…なんて拒絶されたら。
餓鬼の癖に色気づいて、なんて笑われてたら。
多分…マジで、すげえ凹んだとも思う。
それに、5つも年下で背だって低い餓鬼の俺のこと、それでもこうしてずっと待っててくれたってのも、無駄に色仕掛けとかしてたっつーのも、触れたい…って云う俺の身勝手な衝動を、否定しないですんなり受け入れてくれたことも。
実は、すげー嬉しかったりするのだ。



それでも。
正直。まるで、自信なんて…ない。
最後まで出来る自信だって、ない。
だけど。



跳ねる心臓。
暴れる鼓動が、酷く耳につく。
静まれ・とばかりに、ぎゅっとTシャツの上から早鐘を打つ心臓部分を握り締めて…それから大きく息を吸って。掠れた声で、名前をよんだ。
まつもと、と。
カラカラに渇いている、喉。
カサつく くちびる。
口の中がやたらと粘りつく。
潤すように、唾をごくりと飲み込んで。
やっとの思いで、隠してた『本音』を口にした。

「…したい」って。

松本、は。
にっこり笑って、しなやかな両腕をそっと俺の背中へ廻すと、小さく「…うん」って、頷いた。








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