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13.


庭師と少しずつ言葉を交わすようになって、俺は庭に出ることが少しずつ楽しくなり始めていた。
すると、以前は『時折』であった松本からの散歩の誘いが、やがて『日を置かず』になり、今では『毎日の日課』となった。
(勿論、その日の天候と俺の体調にもよるが…)
そうして毎日庭に出て、庭師の誰かしらと会話をしている内に、今度は俺に花をくれた庭師の妻でこの屋敷の使用人として働いていると云う女が時々俺と松本に話しかけてくるようになった。
そうは言っても俺は彼女と挨拶を交わす程度で、応対は専ら松本がしていたから俺と直接会話をしたことなど数えるほどしかなかった筈だ。


だが、ある時。
俺がずっと探していた本を書庫から見つけてわざわざ届けてくれた際。
「手間をかけさせてすまなかったな。ありがとう」と。
頭を下げて礼を述べた俺に、にっこり微笑んで。
ああ、やっぱりと、女が言った。
「主人が言った通りのお人柄だわ」と。
訝しむ俺に、何故か嬉しそうに言ったのだった。
だからその後暫くして、彼女が屋敷の誰もが嫌がる俺付きの使用人として自ら名乗りを上げてくれたと知った時は驚いた。


異形の俺と。
家の為にと娶られた妻。


何ひとつ変わらない筈の俺達の、周囲だけが…少しずつ居心地の良いものへと変わってゆく。
尖りが取れて、穏やかな…まあるいものへと変わってゆく。
会話が増えて、笑顔が増えて、つながりが増えて…ここでこうして生きていくことが、前ほど辛いとは思えなくなってゆく。
その、少しずつ変わっていく周囲の様を、俺はずっと面映い気持ちで眺めていた。
そして、ようやく気が付いたのだ。

…違う、と。

これまで何ひとつ変わらなかった俺の周囲が、こんなにも突然…何もかも俺達に都合良く変わる筈がないことに。

(ああ、そうか)

これらは全て、自然に変わって行ったわけじゃない。
全てアイツが…松本が変えてくれたのだと、この時になり、ようやく俺は気が付いたのだ。
誰にも接することなく独り部屋に閉じこもる俺を、外へと連れ出し、少しずつ周囲に溶け込めるようにと気遣い、俺と…俺の周囲との摩擦を減らしてより良い関係へと導いてくれたのは、他でもない…松本だった。

(ああ、そうだ)

松本が居たから。
いつだって松本が傍に居てくれたから、俺は…。



*
*

ようやく気付いた自分を、俺は『愚か』だと恥じた。
それから、今も傍らに寄り添う松本の横顔をゆるりと仰ぎ見た。
仰ぎ、見て。
改めて。
じわりとこの胸に込み上げてきたのは、松本への感謝の気持ちと、温かな感情。
その、込み上げる感情のまま衝動のままに、繋いだ指先に力をこめた。
「…冬獅郎さん?」
強く手を握り返されたことに気が付いたのか、小首を傾げて振り向いた松本と視線が交わる。
「どうしました?」
ふうわりと優しく微笑んだ松本に、俺は一瞬見惚れて目を伏せた。
…目を、伏せて。
それから、改めて口にしたのは。


「ありがとう、松本」


初めて伝える、松本への感謝の言葉だった。







全然盛り上がりのない展開ですみません(笑)とりあえずこの雛森は全然日番谷のことなんて目に入ってないですよ(原作もそんな感じだしねw;)あくまで『日→雛』です。
どうにも日番谷が意固地でヘタレで申し訳ないのですが、小さい頃から親に嫌われてずっと独りで居たから人の心汲むのとか苦手な上に性格相当屈折してるってことで、その辺はどうか見逃してやって下さい(w; そんな日番谷を松本が手懐けていくまで的なコネタなだけですから、本当;; 松本は原作でもきっと十番隊隊長に就任したばかりの日番谷と周囲を色んな意味でフォローしたんじゃね?と思ってこんな展開になりました。(だって過去編で喜助が隊長に就任した時だって、相当隊士達との軋轢あったしね!見た目子供なだけに日番谷もひと悶着あったんじゃね?と思うのですよw;) ちょっとだけ『日→←乱』ぽくなって来たところで大した盛り上がりもないまま多分次くらいで終わります(笑)

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