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猛スピードで彼らは 1.

※こちらは『どうしようもない僕ら』のその後の2人のアレやソレやなお話になります。
若干微裏傾向に付き、苦手な方は要注意☆
ちなみに今回タイトルは私の好きな少女漫画の題名から拝借しております



ようやく迎えた卒業式。
だっせえランドセルともこれでやっとおさらば出来ると気抜けるばかりで、特別思うところもない。だから、感慨一つ沸かない。
むしろ早く卒業したいとばかり願っていた俺は、周囲から見て相当浮いていたに違いない。
そのせいか、誰一人として俺に声を掛けてくることもない。
(だからと云って、それを寂しいこととも思わない)
卒業を迎えるに当たりやたら感傷くさくなっている担任と、クラスの連中とを見渡して。
だけど実際『卒業』なんて云ったところで、殆どのヤツらがそのまま地区の中学に進むのだ。
そこまでさめざめと別れを惜しむ理由がわからないと首を振ってしまう俺は、やはり『子供らしさ』に欠けるのだろう。
式を終え、最後の別れの挨拶を交わし、卒業証書を手に教室を後にする間際。
日番谷、と。
不意に俺を呼び止めた担任が、至極言い出しにくそうに告げたひとことに眉を顰めた。
何故ならそれは、卒業を迎え今まさに旅立とうとする教え子に贈るには、余りに似つかわしくない『戒め』の言葉だったからだ。



*
*

「卒業おめでとう、冬獅郎!」
松本の家の玄関を開けた途端満面の笑みで出迎えられて、抱き締められた。胸の中。
「ちょ…待てって。せめて玄関閉めてからにしろよ」
苦笑混じりに諌めた後、後ろ手でカチリ・カチリと玄関の鍵を2つ施錠した。
それから改めて目の前の女に向き直ると、誘われるままにそのやわらかな胸元に抱き寄せられた。
鼻腔を擽る、あまいおんなの香りと、やわらかな肢体。
安堵に思わず吐息が漏れた。
お互いがお互いを感じる為に交わす抱擁。
それはまるで、なくてはならない『儀式』のようなものだと思う。
あまえるように縋るおんなの背中を軽くぽんぽんと撫で上げて、それから少しだけ背伸びをして、くちづけを交わす。
あいかわらず あまいにおいのする 松本のくちびる。
軽く触れただけなのに、てらてらとぬめるグロスがくちびるにべとりと移っていた。

「ありゃりゃ」
「つか。つけ過ぎだ、お前」

べたべたとしたこのグロスの感触が、俺は前から余り好きではない。
けど。
手の甲でぐいとグロスを拭った俺にうふふと笑って、ごめんねと小首を傾げる松本が。
今、この色を移す相手が俺だけであると思えば、そう気分も悪くはない。
だから敢えて止めさせようとも思わない。


「…なあ。ところで今日、おばさんは?」
「んー?仕事だよー。なんかね、忙しいみたいで戻ってこれないみたい」
「ふーん」
「とーしろーのお家は?」
「あー。また、ばあちゃんトコに泊まりだと」
「そっかあ。大変だねえ、おばさん」
「まあな」
「あ。でも、でも!それじゃあ今日は、朝までいっしょにいられるね」


そう言って。
本当に、嬉しそうに。
無邪気に笑った松本に、釣られて思わず苦笑が浮かぶ。




それから招き入れられた、4畳半の小さな部屋。
それがこの家の中での松本の『城』だ。
ベッドとタンスと小さなテレビでめいっぱいの、小さな小さなこの部屋の中で、いつだって松本は餓鬼みたく俺にあまえてくる。
でっかい身体をちいさく丸めて、ちいさな俺の身体に抱きついて、くちづけを強請り、あまえてくる。
そうしてふたりで思う存分じゃれあって、夜が来たら身体を寄せあい、抱きあったまま眠りにつく。
夜を共にする日は、いつだってずっとそうしてきたのだ。俺達は。

だけど。

眉尻を下げて、困ったみたいな顔をして。
最後の最後にぎこちなく俺に笑いかけた、クラス担任の顔がふと脳裏を過ぎった。
…あのオッサンは、何かを見越して最後に俺にあんな『釘』を刺したのだろうか?
風呂上り、濡れた髪をタオルで乱暴に拭いながら、ぼんやりと思い出す最後の言葉。忠告にも似た、的確な戒め。

だけど、今更だ。
そんな御座なりな戒め、今更何の意味も持たない。
松本の手を取った、今の俺には。









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あきゅろす。
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