[携帯モード] [URL送信]
11.


あれから、2年。
雛森の突然の帰国からは、半年余りの月日が流れていた。
あの日、以来。
雛森が俺を訪ねて来ることは一度として、ない。
女学校を卒業後、すぐに式を挙げることになっているのだと言っていたから、多分今頃は花嫁修業にでも勤しんでいるのだろう。



…雛森、に。
未練がない、とは言わない。
けれど、もう。
仕方のないことなのだ。
俺には、もう…松本と云う妻が居て。
雛森には、もう…俺の父親によって宛がわれた男が居る。



『家』の為、『日番谷』の為の、政略結婚。
それでも雛森は受け入れたのだ。
この『家』の犠牲となることも、夫となる『男』のことも…。
ならば、もう。
追いかけることに、意味はない。



「大丈夫。少しずつだけど、その人のこと、ちゃんと好きになってるから」



あの時。
そう言って、淡く微笑んだ雛森の顔が少しだけ寂しそうに見えたのは、もしかしたら…俺の思い込み・勘違いだったのではないか、と。
半年と云う月日が経ち、あの頃よりは幾分か冷静に物事を捉えられるようになった今、俺は思い直してもいるのだ。
思い返してみれば、眉尻を下げてはにかむように笑ったアイツは、少なくとも…悲しんでいるようには見えなかった。
俺と松本のことを知った後、自分もとうとう結婚が決まったのだと至極言い出しにくそうに自身の『婚約』を打ち明けたあの時の雛森は…ただ、照れ臭かっただけではなかったのか。
(そうでなければ娘を溺愛していたあの叔父と叔母が、雛森の縁談に同意する筈がない)
恐らく。
自ら選んだのだ、雛森は。
…ならば、俺も。
何時までも過去に囚われることなく未来を選び、いい加減前へと進まなくてはならない時が来ているのだろう。



それから。
改めて俺は、傍らに寄り添う女の横顔を盗み見た。
あの日。
ずっと俺の傍に居ると言った女は、あの時告げた言葉通り…こうして今も俺の傍に居る。
発作を起こせば厭うことなく献身し、ただ、俺の為にと尽くすこの女のことを。
愛していいのか、それとも突き放すことで自由にしてやるべきなのか…この期に及んで俺はまだ、明確な答えを見出すことが出来ないでいた。







[*前へ][次へ#]

13/31ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!