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9.

*
*

「夫に、なる…男?」
「ああ。この間…ここに来た時、雛森から直接聞いた。なんでも…うちの取引先の子息で、俺の親父がどうしてもと勧めた相手らしい」
「…っ!」


うそ、と。
小さく息を呑んで驚いたあたしは、それが日番谷の当主自ら纏めた縁談であったことに、何より一番驚いた。
まさか、と云う懸念が不意に脳裏を過ぎる。
けれど。
「どうせ親父がくだらねえ気でも回したんだろう」
吐き捨てるように告げた、その、ひとことで。
自分の懸念が間違いではなかったのだと、全く同じ懸念をこの少年も抱いていたのだとあたしは瞬時に悟った。


あのひとは、旧華族と云う『家柄』欲しさに無理矢理娶らせたあたしと離縁されては困ると、この少年の泣き所であるあの少女を、完全に少年から遠ざける為に…手を廻したのだ。
それも、最も確実且つ、卑劣な方法で…。
(…あんまりだわ)


「別に俺は何処にも逃げやしねえし、お前と別れることなんて出来る筈もねえのにな」
冷静を装いながらも、恨み言を口にする少年の面差しは酷く苦しげで、あたしは思わず息を呑んだ。
勿論掛ける言葉など見つかる筈もなく、唇を噛み締め俯くことしか出来なかった。


少年から聞かされた事実は確かにショック、だった。

(だけど、あたしは…)

日番谷の当主の仕打ちに確かにショックを受けてはいたのだけれど、それよりも…少年の言った言葉にあたしは大きなショックを受けていたのだ。


…あたしと。
別れるつもりはない、ではなくて。
別れるなんて、出来る筈がない、と。
確かにあのひとは言ったのだった。
その、語意の違いは余りにも大きくて、あたしを消沈させるには充分だった。



*
*

雛森桃と、日番谷の…取引先の子息との縁談。
実に良く出来たその話は、少年によれば、もう随分前から内密に進められていたのだと云う。
あの少女より、一回り以上も年上の男との婚約。そして結婚。


初めは確かに気が進まなかったけれど、それでも顔を合わせる内に少しずつ好きになっていけたからいいの、と。
少しだけ寂しそうに微笑んだと云う少女に、この少年はどれほどの憤りを感じたのだろうか。
幸せになって欲しいなどと願ったところで、結局、あたしのせいでこの少年も雛森桃も、全てを諦めざるを得なくなったのは明白だった。



今。
目の前に居る少年の目は、確かにあたしを見つめているのに…。
その翡翠には、あたしの姿が映っている筈なのに…。
すり抜けてゆくあのひとの視線。
虚ろに沈んだ翡翠の瞳。

(このひとをこんなにも遠くに感じるのは、きっと…)

決して絡み合うことのないその視線、眼差しが見つめているのはきっと…貴方の大切なあの子だけだからなのね。







『日番谷病弱設定』の筈だったのにちっとも設定が生かされてねえなあと思って血のひとつでも吐かせてみたら、またとんでもない方向に進んでしまってまいったなあとかちょっと思っている次第です。(←笑えねえよ、俺…orz)最早、どこの昼メロだよ!ってカンジのノリですが、もう少しだけお付き合い頂けたら嬉しいです;;(ペコリ) 

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あきゅろす。
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