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11.


「…えっ?!お…おーさまっ!?」
「なんだ、まだ起きてたのか」

もう二時過ぎだぞ、と。
相対する王様も、目をまんまるにして驚いていた。
恐らくは。
今の今まで仕事に追われていたのだろう。
ぼさぼさの髪と墨の匂い。
微かに汗のにおいが鼻腔を衝く。
(これはいったい全体どう云うこと??)
このひとってば、何でこんなところに居るのかしら。
しかも、こんな夜更けにこんな疲れ切ったような顔をして。
どうしてあたしを抱き締めたりしてるのかしら。…今になって。
「かったりぃ」
「おっ、…疲れさまです」
あたしより頭半分ほど低い位置にある、ほわほわの旋毛が鼻先を擽る。
あたしの肩口に顎を乗せたまま溜息を吐く。
その余りにも年にそぐわないくたびれた様に、思わずよしよしと慰めるように軽く背中を撫で上げたなら、更に強く。ぎゅうと背中を抱き返された。
「お前、今日はまた一段といい匂いさせてんなあ」
肩口に鼻先を埋めたまま、すんと鼻を鳴らしたように王様が、ふと気が付いたように口にしたのはその時のことだ。
…と、ゆーか。
今日はまた一段と??
そのひと言に何故か引っかかるものを感じて、胸中「ハテナ?」と首を傾げる。
確かに今夜は「万が一と云うこともありますから」と諭す七緒に、やけに丁寧に身体中ぴかぴかに磨き上げられたし、香油もくまなく塗りたくられた。
それも確かにフレーバーの違う、おニューの香油を七緒はあたしへと塗りたくっていた筈だった。
(てゆーか、何で知ってんですか?)
このひと月余り、あたしの元になんて通ってきてもいなかった癖に。
昼にちょっと肌を重ねただけなのに。
一段といい匂いさせてる…なんて。
なんでそんなこと言えちゃうわけえ?と思いながらも曖昧に問う。
どうせ場当たり的に適当に、思ったことを口にしただけに違いないと思ったから。
『一段と』なんて言葉にどうせ、深い意味がある筈ないと思ったから。
「その…王様は、湯浴みは?」
「いや、まだだ」
「あ、じゃあ七緒を呼んですぐに用意させましょうか?」
二時じゃあとっくに寝ている時間だろうけれど、あの子が言っていた通り本当に、その日の内に王様のおとないがあったのだ。
となれば夜中に起こされたところで文句のひとつも無いだろう。
むしろここぞと張り切って、湯の用意をしてくれるに違いないと思って提案したのだけれど。
「あー、朝風呂浴びるつもりでいたんだが、…気になるか?」
軽く眉根を寄せると王様は、自身の左腕の匂いをスンと嗅ぐ。
だから慌てて「違います!」と、ぶるぶる頭を振って否定した。
「やや、臭うとかそんなんじゃないですけども!その、お疲れのようですし、湯浴みでもしてあったまったところで寝られた方が…」
ぐっすり眠れるかなと思っただけです、と。
続けられる筈だった言葉は…だけど、くちづけによって意図も容易く遮られた。
それも、舌を絡めるようなふっかいヤツ。








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あきゅろす。
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