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10.


おかげで今夜のあたしはどこぞの初夜の花嫁ですか?と云うぐらいには、全身隈なく磨き上げられて、ピッカピカのつるっつる。
すべすべもちもちお肌である。
(うん。どうせだったら昼にこの状態で王様にお会いしたかったわよ)
尤も、悔いたところで後の祭り。
だいたい『万が一』なんて言ったって、夜また王様が会いに来るとか先ずあり得ないから!
(どうせ王様は今夜も『神の娘』と一緒でしょう?)
それに昼に一度、既にあたしの元へと訪れているのだ。
…その際床も共にしちゃったわけですし?
となれば余計に、今日また再び夜の渡りがあるとは到底考え辛い。
(そうでなくても随分仕事が忙しいようだし?)
あたしのことなんて、どうせ二の次三の次。
下手すれば、昼のアレが最後の渡りになりかねないなと思ってはまた自嘲が浮かぶ。
それでも何だかすぐには寝付かれなくて、ああ…あもしかしなくともやっぱり期待・とか。
してたのかしら、心の底で。
こんな念入りにお手入れもしたのだし、夜着もおニューだしひらひらフリルで可愛いし、出来ることなら王様に見て欲しいな。触れて欲しいな、もう一度。
そんな詮無いことを考えていたのかもしれなかった。
だから結局寝付けないままに、暫し寝台に横たわって。
ふとあの絵本のことを思い出した。
(そうだ。昼間、転寝をする前に、確か長椅子に掛けて読んでた筈だ)
なのに寝台で目覚めた際に、絵本は傍には置かれてなかった。
況してやうたた寝をしていた長椅子にも。
同様に、本棚の中にも見つからなかった筈だった。
(あ、あれえ?)
「やだ。どこに仕舞ったのかしら、あの絵本!」
読めば確かに胸は痛む。
辛いと思わないこともない。
それでもあれはあたしにとって、何より大切な思い出の本で。
嫁入りの際に持参してしまうぐらいには大事な宝物でもあったから、慌てて寝台を降りて居室へと向かおうとしたところで目を丸くした。
キィと微かな音を立て、開かれた居室へと続く扉。
その向こうに、思いも寄らぬひとの姿があったから。








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