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9.


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次のおとないが何時になるのか、そもそも『次』なんてものがあるのか無いのかすらもわからないけれど、その夜の湯浴みであたしがいつも以上に念入りに身体を磨いてしまったのは、やはり昼のおとないのせいだとも云えた。
何しろここひと月余り夜の渡りが無かったこともあり、最近ではすっかりお肌のお手入れもサボリがちになっていた。
(どうせ磨いたところで、誰に見せるわけでもないし?)
そんなやさぐれた気持ちでいた為に、手入れもそこそこ、香油もいいわと断っていた次第である。
これには今思い返しても「失敗だった」と言わざるを得ない。
どうせ部屋から出ることもないからと、お座成りに櫛を通しただけの髪に当然艶などある筈も無く、…更には寝起きでボサボサ、身だしなみすら整ってない。
この半月ろくに手入れもしてこなかった、香油もすり込んでいなかった肌は、潤いもなければ香りがしない…どころかむしろ、汗臭かったやも知れず。
況してや湯浴みの前である。
(どう考えてもあり得ない!)
そんな無い無い尽くしのままに、王様と床を共にしてしまった、と。
我に返って青ざめたのは言うまでもない。
(万が一…ううん、億万が一にも『次の機会』なんてものがあったらやっぱりマズイじゃない?)
正妃候補として離宮に居る間、せめてお肌磨きとお手入れぐらいは今まで通りにちゃんとやっておくべきかしら?と思い直して七緒にその旨お願いしたら、いったい全体何を早とちりしたのやら。
豪く張り切った七緒に、何時に無く念入りに身体も髪も磨かれた挙句、これでもかってぐらい丹念に、至るところに香油を塗りたくられてしまったのである。
「ね…いつ王様の渡りがあってもいいように、これまで通りちゃんとお手入れしてちょうだいとは確かに言ったけど、…幾らなんでもここまですることないんじゃない?」
「とんでもない!彼是半月近くもお手入れをサボっておいででしたし、多少やり過ぎなぐらいでちょうどいいかと思いますが?」
それともまた、ボロボロボサボサの姿で王様のおとないを迎えますか?と、にっこり笑顔で迫られて、それは…と思わず口ごもる。
う〜ん。それ言われちゃうと返す言葉も無いんだけど。
なんと夜着まで下ろしたてと、もの凄い気合の入りようなのである。
(いやでもこのカッコで独り寝とか、むしろ虚しさ倍増しそうなんですけれども、あたし?!)
「でもねえ、別に今夜どうこうってワケでもないんだし?」
「いいえ、万が一と云うことも考えられます!」
…って。
いやいや、それこそ億万が一の可能性もないわよ!と。
思わず反論の言葉を口にし掛けたものの、自身の立場とおよそ半月余りも七緒の訴えを無視して肌の手入れを怠っていたことをまたガミガミと咎められてしまえば最早、あたしとしてもぐうの音も出ない。
されるがままに大人しく、身を預けるより他無かったと云うわけである。








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