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7.


あたしが再び目を覚ましたのは、既に夕暮れ時を迎えた薄暗い部屋の中でのことだ。
当然傍らに王様の姿は無く、寝台にはあたしひとりきり。
ぶるりと肩を震わせながら、恐らく隣りの居室に控えているだろう侍女の名前を小さく呼んだ。
すぐにもカチャリと扉が開いて、燭台を片手に七緒が部屋の中へと入ってくる。
「王様は?」
「既に政務にお戻りに」
「…そ」
予想通りの答えに最早、落胆すらも浮かばない。
結局欲しい『言葉』は何ひとつ、与えてなんて貰えなかった。
『神の娘』をどう思っているのかも、半年後に控えた婚姻の儀がどうなるのかも、何もかも。
何ひとつとして聞かせて貰えぬままに、ただ熱情を注がれただけ。
その際睦言すらもあったのか、正直なところ記憶は乏しい。
「ね、王様は何か言ってなかった?」
「…何か、ですか?」
「ええ。例えば、その…何かあたしに伝言…とか」
「いえ、これと云って何も」
「……そう」
どうやら戻る際ですら、なんの言葉も伝言も、気遣いすらも残して貰えなかったらしい。
(また来る、とか…。そんなひと言ぐらい、あってもいいんじゃないかと思ったんだけど)
無しですか、そうですか。
つまりはまた暫くの間放置決定ってことですか、あたし?と思って、ズンと項垂れたその時のことだ。
「とは云え、無理もありません。今日は余程お忙しい中、わざわざおとない下さったようですから。何しろ人払いをされた手前、邪魔立てするわけにはいかないからと、後からいらした侍従の皆様雁首揃えてこの部屋の前で王様がお出でになるのをお待ちになっておられましたもの。漸く寝所から出て来られたと思ったら、お召し物もそこそこに、髪もぼさぼさのまま引き摺られるように王宮へと連れ戻されてしまいましたから、私としても口を挟む暇もありませんでした」
その時の光景を、思い出したようにくすくすと笑う。
けれどそんな七緒の耳にだって、王様と『神の娘』に纏わる噂の数々が入っていない筈も無い。
それでも七緒は何も言わない。
何も知らないような振りをする。
情交の跡も露なあたしの一糸纏わぬ肩へとガウンを掛けて、…次のおとないの際は少しゆっくりとお話が出来るといいですね、などと。
惚けた慰めを口にする。
…ああ全く、やさしいんだかやさしくないんだか良くわからない。
「さあ。私はこれから少し寝台を整えますので、先に夕食をあちらでどうぞ」
今夜は乱菊さんの好きな赤ワインも用意してありますよと促すこの子は本当に…何を考えているのか良くわからない。
(本当は、心の内で嘲笑っているんじゃないの?)
久々に部屋へと足を運んだところで、ロクに話も出来ないままに、求められたのは身体だけ。
しかも、用が済んだら伝言ひとつも残さぬままに、さっさと部屋を後にするとか。
どう考えても愛されてるとは言い難い。
そのぐらい、この子にだってわかってるでしょうに…。
だから思わず零していた。


「やっぱり家に帰ろうかしら」









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