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6.


いったい何を言われたのか、と。
一瞬理解が及ばなかった。
…え?と。
疑問に思わなかった筈もない。
息抜きに付き合えと言うが早いか、寝台の上へと組み敷かれる。
抗う間もなく乗り上げられる。
ドレスの裾から忍び込んだ、硬い指先がぞろりと腿を撫で上げる。
(う…わあっ!)
「っお!おーさま?!」
「時間ねんだ。悪リィな」
ああ、人払いは済ませてあるから安心しろと、勝手なことをしゃあしゃあほざいて肩口にかぷりと歯を立てられる。
未だ寝起きで廻らない頭。
けれど意図を察した瞬間、サッと血の気が引いた気がした。
…ああ、なんだ。
会いに来てくれたわけじゃないんだ、別に。
会いたいと思ってくれたわけじゃなかったんだ。
忙しい政務の最中、あたしのことを思い出して、様子伺いに来たわけでもなければ、巷に流れる『神の娘』との婚姻の『噂』の真偽を明らかにする意図があったわけでもなくて。
ただ、単に。
このひと月の憂さを晴らしに来ただけですか。そおおですか。
(そりゃあそうよね、こんなこと…幾ら好意を抱いているからって、『神の娘』相手に出来っこないわよねえ)
だって相手は聖女だ。
精霊の加護を受けし乙女なのだ。
幾ら王様とは云え、そうそう手出し出来ようもない。
軽い気持ちで汚していい相手である筈もない。
となれば現状この城の中で、忙しい政務の合間の息抜きがてら、憂さを晴らすのに最適な相手など『あたし』以外にいないだろう。
思い至っては絶望に沈む。
元より拒める相手じゃないけれど。
拒むつもりもなかったけれど。
それでもさすがにこの扱いには、ほんのちょっぴり泣きたくなった。
ひと月余りも放っておかれて、忘れ去られて。
必要があるのはこんな時だけなんだなと思ったら、なんだかとっても惨めな気持ちになってしまったのだ。




圧し掛かる王様の肩越し、窓の向こう。
青い空があんまり眩しくて目に痛くって、気付けば瞼を閉じていた。
ひと月振りとなる王様のおとないに、さっきまで感じていたしあわせな気持ちも、心躍るような嬉しさも。
ぎゅうと閉じた瞼の向こう、跡形も無く消え去っていた。








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あきゅろす。
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