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4.



――夢を見た。

大好きだった、夢中になって何度も読んだ絵本の夢。
だけどちっとも嬉しくなんてない。
何しろその夢の中であたしは、よりにもよって王子様の許婚だった意地悪な隣国のお姫様の姿をしていたのだから。
(…って、ここでもかあっ!)
ここでもあたし、敵役?
夢の中でも現実でも、やっぱりあたし…敵役ですかそうですか!
しかも目の前には、仲睦まじく寄り添う王子様と『神の娘』が居て。
王子様はあたしに向けて「すまない、姫。あなたと結婚することは出来ない。私は『神の娘』を…彼女を、心から愛しているんだ」と。
至極残酷な言葉で以ってあたしへと、許しを乞うていたのだから。
…なんとゆーか、よりにもよってこのシーンの再現ですかっ!
ナニコレ、もしかしなくとも予知夢ですか?それともアレですか、正夢ですか?!
(うああああああああ!!)
そんな衝撃的な告白を受けた『あたし』は、けれど内心の絶望を他所に「赦さない」と憤怒で以って断じている。
「『神の娘』などと云う、異界の…それこそどこの馬の骨とも知れない娘に心を移すなんて、赦さない!!」
そう言って。
嫉妬に怒り狂う醜い顔は、まるで真っ赤な鬼のようだと、鏡を見ずとも今のあたしは知っている。
だってこれは、繰り返し繰り返し、幾度と無く読み返して来たお気に入りのページなんだもの。
怒り狂う隣国のお姫様を前に、怯える『神の娘』の肩を抱き寄せて。
王子様はやさしく笑うと、
「大丈夫だよ。この命に代えても私があなたを護ってみせる」
――私が愛しているのはあなただけだ。
神の娘の耳元に、王子様がそっと囁きかけるシーンなんだもの。
ああ、だけど。
どうしたことか、目の前に居る絵本の中の王子様の顔が、不意に王様の顔へと変わって息を呑む。
それを受けて、更に憤怒に染まったであろうあたしの顔。
…けれどあたしは知っている。
この『隣国のお姫様」は、王子様のことが好きだから。
最初はただの政略結婚の相手でしかなかったけれど、いつの頃からか本当に、心の底から大好きになってしまっていたから。
だから泣いている、心の中で。
どうして!?と、声なき悲鳴を上げている。
(だって『あたし』がそうなんだもの)
絵本の中の、ひねくれ者で傲慢で、だけどとても不器用なお姫様。
…ねえ、そんなに王子様のことが好きだったんなら、どうしてもっと素直に伝えなかったの?
そんなに好きなら、いっそ愛らしく泣いて引き止めていれば良かったのに。
『神の娘』に嫌がらせをしたり意地の悪いことをするんじゃなくて、もっと素直に王子様に自分の気持ちを伝えていれば良かったのに…。
そうしたら、例え振られてもここまでみじめな思いはしなかったんじゃあなかったのかしら?
もしかしたら、王子様の心にほんの少しでも『神の娘』と結ばれることへの後ろめたさが生まれて、万が一にも温情を頂けたんじゃあなかったのかしら?
――思う傍から涙が出た。
ぼろぼろと溢れ出る涙は、…けれど。
きっと目の前の王様にも『神の娘』にも見えてはいない。
それでもあたしの涙は止まらず、視界を更に滲ませて。
やがて王様も『神の娘』の姿も見えなくなる。
辺りは暗く闇に包まれる。
…独りきり。
取り残された『夢』の中、あたしはただわあわあと、声を上げて泣いていた。


――そんな夢を見て、目が覚めた。









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あきゅろす。
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