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3.


どうせ嘘でしょ。誇張でしょ。
だいたい相手は『神の娘』なんだから、当然扱いは国賓級だろうし、そうなれば常に王様が付き添うことになるだろうし?
大方それを大げさに吹聴して回ってるだけなんでしょ。
結局は、あたしを貶めたいがゆえの出任せでしょう、と。
最初の内こそ強がったりもしたんだけれど、所用で王宮へと出向いた際、庭園をふたり仲良く肩を並べて散歩している王様と『神の娘』を遠目に見かけた。
あの『噂』が事実と知って驚愕をした。
心底打ちのめされた次第である。
いやもう何がショックだったって、あんまり仲睦まじげだったんだもの!
現状婚約者たるあたしから見ても、とってもいい雰囲気だったんだもの!!
むしろ、羨ましいなとも思ったわよ、ぶっちゃけますと!
だってあの仏頂面で愛想の欠片もないような王様が、酷く穏やかにあの子に向けて笑いかけていたんだものっ!
(うわあ、そりゃあ噂にだってなりますよねえ)
だって王様のあーんな優しい笑顔とか、あたしだって見たこと無いわよ!吃驚よっ!
婚約成立してからのこの五年、一度たりとも目にしたことがないわよ!惨敗ですよっ!!
…ああ、うん。
負けたね。完敗だね。
手も足も出ないよね。
ぐうの音だって出ないよね、これ。
すごすご引き下がるより他ないわよね。
日々こんな光景を目にしてるんじゃあ、そりゃあ王様の周りだってふたりが結ばれることを望んで当然でしょうよ。
あたしが邪魔にもなるでしょうよ。
排斥したいと思って当然ですよ。
少なくとも、前宰相の娘ってだけのあたしなんかと結婚するよりか、ドラマチックで運命的、ロマンスだろうなと思いますとも。
ええ、あたしだって当事者なんかじゃなかったら、どちらが国益に適う相手かなんてものを抜かしても、『神の娘』を全力で以って応援しますよ。当然ですよ。
だからその時もその後も、結局何も言えなくなった。
たまにはお顔を見せて下さい、と。
文のひとつも届けさせようかと思っていた矢先のこの出来事に、さすがにそんな気失せてしまった。
むしろいつ「お役御免」の王命が届けられるかと思って怯える始末よ。
わあ、情けない!
おまけにあたしの後ろ盾である筈の父も、さすがに寄る年波には勝てなかったのか、あたしを早々離宮へと召し上げるよう議会に働きかけたのを最後に、すっかり大人しくなってしまっていた。
嘗てのような勢いもなければ威厳もない。
発言力も失って、議会に及ぼす影響力も無いに等しい今となっては、『神の娘』が現れずとも、何れあたしは正妃候補の座を追われていたに違いない、と。
確信を抱くぐらいには、すっかりひとが変わってしまったようだった。
となれば実家とお父様の後ろ盾など当てには出来ず、頼れるものは許婚たる王様だけ。
(なのに肝心の王様が、『神の娘』に夢中じゃあねえ?)
婚姻の儀まで残すところ半年となった今まで、この陰謀渦巻く王宮の中、何とかあたしが正妃候補として生き残ってこれたのはただ単に、王様に否やがなかったから。
婚約の破棄を勧める周囲の声に、「面倒だから」と一切耳を貸さず、あたしを傍へと置いたから。
正妃候補として早々王宮へと召し上げた挙句、既に離宮に部屋まで与えてあるのだから、と。
正妃候補の考え直しを根強く勧める周囲の声を、王様自ら一蹴したからに他ならない。
だから例えどれほど目障りに思われようとも、そう簡単に排斥されずに済んだのである。
けれど、今。
『神の娘』に夢中の王様に、助けを望むまでもない。
そもそも訴え出たところで、今となっては王様から助けの手が差し伸べられるかもわからないのだ。
だったらひとり、離宮に篭もって大人しくしてるより他は無い。
(とんだ引き篭もりである)
だからもういい加減あたしの心はぼっきぼきに折れまくっていて、王様の婚約者としての自信ばかりか前宰相の娘である矜持すらもすっかり失ってしまっていた。
だって、所詮はただの政略結婚で。
王様にすればあたしなんて、無理矢理のように宛がわれただけの許婚でしかなくて。
まだ幼かった王様は、それをただ流されるままに受け入れた。
逆らうことも面倒だからと、抗うこともしなかった。
あたしなんて、あのひとにすればただそれだけの存在なのだと、今回のことで否応にも思い知らされたから。
「…帰りたいな」
そんな呟きが、ふとくちびるから零れ落ちていた。








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