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1.


幼い頃に憧れた、絵本の中の王子様とお姫様。
誰もが良く知る、この国に古くから伝わる伝承のふたり。
お姫様は『神の娘』と呼ばれる異界からの迷い人で、その名に相応しく強大な精霊の加護を受け、多大な富と栄誉をこの地にもたらす者と崇められている。
そんな神の娘を愛したこの国の王子は、周囲の反対を押し切って、婚約者だった隣国のお姫様ではなく神の娘を妃にと選んだ。
永遠の愛を誓ったのだ。
結果、婚姻による隣国との同盟を得られないばかりか国同士の戦争へと発展するも、王子率いるこの国の戦士達は神の娘を加護する精霊の力に護られ、形勢は逆転。
隣国との戦争に打ち勝っただけでなく、国中に富と繁栄をもたらしたと結ばれている。
…とは言え、所詮は伝承。
所詮は絵本の中のお話である。
多少の脚色、大げさな表記は随所にちりばめられていただろうけれど。
そんな異界の姫と、姫を愛した王子様の純愛過ぎる恋物語は、まだほんの子どもだったあたしだけでなく、数多の少女達の憧れでもあり、理想の恋人同士の姿でもあった。
だから当然、王子様に振られてしまった挙句、国を挙げての復讐劇を繰り広げた隣国のお姫様のことはちっとも好きになれなかった。
こんな意地悪で嫌なお姫様と、やさしく凛々しい王子様が結婚することにならなくって良かった、と。
子ども心にホッと安堵したほどである。
ゆえに、隣国が戦争に負けたくだりでは、幼いながらに「ざまあみなさい」と思ったものだ。
王子様と神の娘の恋路を邪魔するからよ!と、胸のすく思いに駆られたのも一度や二度じゃなかった筈だ。
(…ああ、だけど)
今じゃそんな幼い頃の傲慢を、反省している。後悔している。心から。
(だってまさか寄りにもよってあたしの前に、正真正銘ホンモノの『神の娘』が現れるなんて、思いも寄らなかったんだものっっ!)
――そう。
伝説と伝承、史実や物語の中でしかお目にかかったことのない、『神の娘』と呼ばれる異界の少女が突如として現れたのだ、この国に。
(強大な精霊に加護された、神に愛された存在…なんて。絵本の中の夢物語か伝説ぐらいにしか思ってなかったけれど)
嘘じゃなかった。
本当だった。
彼女はある日突然に、この国の中央神殿へと舞い降りたのだ。
王宮内に残されている過去の記録や史実が確かであれば、およそ二百年振りとなるこの『神の娘』の再来に、当然のことながら国中は歓喜に湧いたし歓迎もした。
…ただ、ひとり。
現国王の婚約者であり、正妃候補でもあった、松本乱菊――あたしを除いては。









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あきゅろす。
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