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14.


「実はあの後親父に頼んで、日本橋に行った際にあんたの言った甘納豆を買ってきてもらったんだが、まあ…確かに美味かった。けど俺ァ、あんたの手製の甘納豆のがずっと美味いと思ったんだよな」
まあ、惚れた欲目ってヤツだ、と。
臆面も無く打ち明けられて、言葉を失くす。
些か気が早ええとは思ったが、どうしてもあんたが欲しいと思ったから。
嫁に貰うんだったらあんた以外考えられねえって思っちまったから、…婚期も間近なあんたがいつ他の男に嫁ぐかと思ったらすげー焦って動揺して、すぐにも叔父貴に仲立ちを頼んだのだ・との言葉に、どうにも面映くなって目を伏せる。
膝上に置いた両の手のひらの指先を、忙しなくもじもじと組み替える。
(て、ゆーか!なんなの、その思い込みの激しさは!)
だってその頃ってばまだ若旦那、十かそこらだったんでしょが!
なのにたった一度の邂逅で、そこまで女ひとりに執着しちゃう?
それも、あたしよ?
十の子どもから見ればうんと年上の、口も悪くて愛嬌だけがとりえみたいな、たかが小さな菓子屋の看板娘如きなのよ?!
嘘みたい嘘みたいと、ぐるぐるもんもん頭を巡らすあたしを他所に、尚も若旦那は訥々とのたまう。
「叔父貴には当然鼻で笑ってあしらわれたが、あんまり俺が必死だったからだろうな。サボってばっかいた手習いも真面目に通って家の仕事もちゃんと手伝って、あんたに釣り合うだけの一人前の『男』になったら、まあ…考えてやらねえこともないって言われてな。バカみてえだがこの五年、真に受けて俺なりに必死で頑張った。…つっても叔父貴は、どうせすぐに嫌になってあんたのこともあっさり諦めるだろうと高を括っちゃいたみてえだが」
冗談じゃねえ、と。
誰が大人しく諦めるかよと不貞腐れたように呟いて。
「それでも認めてもらうのに、結局五年…掛かっちまったけどな」
と、自嘲混じりに面を上げる。
釣られたように顔を上げたあたしのことを、真摯な瞳が真っ直ぐ射抜く。
…ああ、このひとは。本気であたしを想ってくれていたんだろうな。
あたしを欲してくれているんだろうなと思いはした。
うん、嫌ってほどわかったんだけど。…だけれども。
(だったらどうしてこのひとってば、あのお見合いの席であんなにも不機嫌だったわけえ?!)







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あきゅろす。
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