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12.


ああでもしょうがないじゃない?
半ば行き遅れの身としては、あの時こんないい縁談があったらな…って、やっぱり未練たらしく思っちゃうのよう!
そんなあたしの繊細過ぎる乙女心を知ってか知らずか、
「つっても、そン時従兄弟にゃとうに相惚れの仲の女がいたからな。それ知って、叔父貴もあんたを嫁に貰うって話は泣く泣く諦めたようだったけどな」
小憎たらしくも、ハッ!と鼻で笑った若旦那は、念押すように「残念だったな」と釘を刺す。…うぐぐ!
「っべ、別に誰も残念がってなんていませんようっ!」
「…あっそ、ならいーけどな」
ああ、因みに従兄弟はその時の女ととうに所帯を持ってる上に三人の子持ちだから、今更無用な期待は抱くなよ、と。
ますます以ってしつこい上に鬱陶しい。
(てゆーかそんなこと、あんたに言われなくても知ってるっつーの!)
「まあ、そんな感じであんまり叔父貴があんたのことを賞賛してっから、俺としてもどんな女か少しばかり興味が湧いてな。甘い菓子なんざ然して好きでもなかったんだが、叔父貴の誘いに乗ってあんたんちまで行ってみたってわけだ」
「わあ、そりゃあさぞかしガッカリされたことでしょうねえ」
そんな期待を抱いてあたしを訪ねて来て下さったなら尚のこと、なんだこんな女か、と。
当てが外れたに違いない。
なにせうちのおっ母さんは、元は深川遊里で名を馳せた、伝法な物言いが売りの辰巳芸者だったのである。
となれば当然、娘のあたしも『おしとやか』からは程遠い。
口の減らねえ娘だ、と。
お父っつあんにもさんざ苦笑されたし、そもそもこの勝気過ぎる性格と物言いが禍して、今日まで縁遠かったとも言えるのだ。
幾ら京楽様の話を耳にしてあたしを見初めたとは言え、実物を見てさぞやガッカリしたことだろう。
予想に反していたことだろう。
――けれどそれに対する若旦那の反応は、意外にも酷く曖昧なものだった。
今し方まであれほど小意地悪くも饒舌だった筈の男が、ふと押し黙るとあたしからそっと目を逸らし。
「…いや、マジでひと目惚れだった」
などと、実に照れくさそうにのたまうではないか!
(えーーーーっ!!)
ひひ…ひと目惚れですかああああ、よりにもよって!!







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あきゅろす。
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