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8.


…まあ、それもそうよね。
なんたって、岡惚れしている女の子相手に、あれだけ笑顔で接してたんだし?
やさしくだってしてたんだし?
無愛想なだけじゃないのよねえ。
ただ、あたしの前であんなにも不機嫌だったのは、望んでもいない縁談を親から持ちかけられたから。
挙句その女が、好いた女との逢瀬の最中に、邪魔するように現れたから。
そりゃあ、誰だって頭にくるわよ。
モロ、顔にだって出るわよねえ?
(うんまあ…ちょっぴり面白くないけども)
目の前で、あれだけ態度豹変されたら、さすがにムカつきもしますけれども。
だけどただひとつ、いまいち腑に落ちないことがあるとすれば、なんっっで今まだこのひとが、しっかりあたしの手を握っているかと云うことだけで…。
正直これには困惑している。
まるで理解が及ばずにいる。
(あとは、あの娘の言ってた「シロちゃんのこと、どうぞ宜しくお願いします」…ってのも、意味わかんないしで引っかかっているんだけれども)
だってあの子にしてみれば、恋敵…に、なるのよねあたし?
なのに何で「宜しく」なの?
ぜんぜんわかんない、いみわかんない。
そう思いながらも、促されるまま座敷へと腰を下ろす。
改めて、若旦那と対峙をした。
いざ話し合いをと身構えた。
――なのに、さっきまでの勢いと剣幕はどこへやら。
若旦那ときたら、ちっとも『言いたいこと』とやらを切り出しゃしない。
ただしかめっ面であちらこちらへうろうろと、視線を投げやるばかりなのだ。
その癖、時折ジロリとあたしを見据えては、更に眦を吊り上げる。
怖い顔してねめつけてくる。
(ああもう、何なのよ、本当に!)
そっちから話し合いの席を設けたんだから、言いたいことがあるんならさっさと言いいなさいっての。
そんで帰してよ、今すぐにでも。
こっちだって見世の手伝い放ってここまで来てるんだから、そうそうゆっくりもしてらんないのよ!
だってあれでしょ?
言いたいことも何も、それってさっきのあの『桃』って子のことなんじゃないの?
そのことで、あたしに釘刺したいってだけなんじゃないの?
うん、だからこの縁談は無かったものとして下さい・って、言ったはずよね?さっき、あたし。
それの何が不満なのかしら。
これ以上まだ、何を話し合おうって言うのかしら、このひとってば。
目の前の男の余りにはっきりしない態度に僅かながら眉を顰めたところで、漸くの如く若旦那が、意を決したように面を上げる。
重い口火を切ったのだけど。
まるで予想外の、それも要領を得ない言葉を突きつけられて、再びあたしは言葉を失った。








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あきゅろす。
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