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7.


「ぎゃおうっ!」
「っだあああああ!!」
そのままうっかり若旦那の背中へと勢い込んで倒れ込んでしまい、しまったああああ!!と。
焦ったところで、何故か若旦那までもが奇声を発した。
それも、飛び上がらんばかりに驚嘆した様子でのことだった。
「っご、ごご…ごめんなさいいいいい!!」
咄嗟のこととは云え、抱き着いてしまった。
それも、思いっきり圧し掛かるように、だ。
正直、倒れ込んだ瞬間若旦那の後頭部に思いっきり鼻っ柱をぶつけてしまい、余りの痛さにその背中をど突きたくもなったのだけど。
て、ゆーか。
いきなり腕引っ張ったアンタのせいだ、ボケーーーッ!!と。
いっそ怒鳴りつけてやりたい気持ちだったのだけど。…だけれども。
「え…ええっと、若旦那?」
倒れ込んだ先、うっかり覗き見てしまった若旦那の顔は、恐ろしいまでに強張っていた。
目つきの悪い三白眼は極限まで瞠られており、ギシギシとぎこちない動きで寄り掛かるあたしを振り返る。
動揺しきりにあたしを見据える。
――その、刹那。
まるで火が付けられたかのように、カッと赤く染め上がる頬。
それも顔のみならず、耳も首下までもが真っ赤になったから驚いた。
余りのことに、何が起きたかと焦るあまり、思わず戦いてしまったではないか。
「う…あ、その、…すみませんっ!!」
「いや、…ああ。おう」
ハッと我に返って、慌てて若旦那の背中から飛び退いたその瞬間。
それまで掴まれていた右腕が、パッと離されたのだけど。
それもほんの束の間のこと。
今度はそろりと手のひらを捕らえられた。
…指先、を。
撫で上げるように絡め取られた。
曰く、――逃げんなよ、と。
そんなことを言われて、何を今更と、思わなかった筈もない。
(だって、有無を言わさずこんなところまで連れて来といて、今更でしょう?)
逃げるも何も、どうしても。
あたしに言いたいことがあるわけでしょう?
ひと言言っておかなくちゃ済まないんでしょ?
だったら最後まで付き合いますよ。
ええ、逃げたりなんてするもんですか。
なのにまた手を繋ぐとか。
こんな情念たっぷりに触れてくるとか、意味がわからない。
そんな戸惑いが勝りながらも、結局。
絡め取られた指先を振り解くことが出来なかったのは、偏に若旦那の顔が今まだ羞恥に赤く染まっていたからだ。
(すっごい無愛想で何考えてんのか全然わかんないひとだけど、悪いひとじゃあない…のよね?)
ちょっとあたしが抱き着いただけで、顔真っ赤にして照れちゃうとか、もしかしたら…存外初心だったりするのかしら?
なんて思ったら、それまで抱いていた警戒心がほんのちょっぴり薄れた気がした。
なーんだ、年相応に可愛いところもあるんじゃない、と。
思って安堵したのである。








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