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6.


うわー、違うし!取らないし!
そもそもあたし、若旦那のことなんて何とも思ってないし!!
(いやまあ、そりゃあちょっとぐらいは、かっこいいかな?男前かな?玉の輿かな?とか思ってましたけれども!)
だけど無理無理、やっぱ無理!
嫁ぐつもりなんて微塵も無いから安心して!
そんな不安げな目で見ないでよう!
諸々否定の意味をこめて、ぶんぶんと首を横に振ってみたのだけれど、…果たして伝わったんだか、ないんだか。
ますます眉根を寄せて不審そうな顔をした幼なじみの彼女は、徐に若旦那の方へと向き直ると。
…シロちゃん、と。
何とも親しげに呼びかけた。
(てゆーか、シロちゃん!)
シロちゃんですか、そおですか。
その年になってまだ、シロちゃん・桃と呼び合うような仲ってことですかそうですか!
ええい、なんともこそばゆいじゃあないの。
なんとも仲睦まじい限りじゃないのよと思わず乾いた笑いが込み上げそうになる。
あーもうコレ、完っっ全に邪魔者よねえ、あたし。
今更話すこともないわよね?
あの見合い話が纏まったのも、これ絶対アレでしょ?若旦那の意向を無視してのことでしょう?
そうでなきゃ辻褄が合わないもの。
あーもう、何なのよこのバカップル!
やってらんないわよ、マジで!!
だからやっぱりさっさとお暇したいと思って、掴まれたままの右腕を、それとなく振り解こうとしたのだけれど。
「っ!!」
ギロリと睨まれ、敢え無く断念。
(理不尽過ぎるっ!!)
あまつさえ、
「とりあえず、あんたとは少しゆっくり話がしてえ。…悪リィが桃、お前ンとこの座敷ちょっと借りるぞ」
…って、何なのこのひとおおおお!!
普通そこで、その選択はありえないでしょが!
てゆーか、気配りってもんが足りてないでしょがっ!!
幾ら彼女の実家が舟宿だからって、この子から見れば『恋敵』とも言えるあたしとふたりっきりになるのに、部屋借りる?!
なんなの、このひと。
マジでなんなの?!
だけど唖然とするあたしを他所に、その桃と云う少女も「うん。そうだね、そうした方がいいよ、シロちゃん。ちょっと待ってて、おっ母さんに言ってくる」…って。
ちょっとちょっとアンタ達、何すっ呆けたこと言ってんのおおおおおお!!
そこ、怒るところ!
同意するところと、ちがあう!!
けれどあたしの戸惑いと、心の叫びは結局…表に出されるその前に、敢え無く不完全燃焼で終わってしまった。
だってあの子、走り出そうとしてふと立ち止まって。
あたしを振り仰いだかと思ったら、空いたあたしの片手をガッと掴んで。
「ちょっと短気だし口の悪いところはありますけれど、ホントはすっごくすっごくいい子なんです、シロちゃんて!だから、シロちゃんのこと…どうぞ宜しくお願いします!」
なんて。
必死で言い募った挙句、深々頭下げてくれちゃうんだもの。
「じゃあね、頑張ってよねシロちゃん!」
なんて、若旦那相手にワケのわからない発破掛けて去ってくんだもの。
これじゃああたしが戸惑って、咄嗟二の句が継げなくなったのも無理はない。
だから若旦那に腕を引かれて大人しく、バカ正直に舟宿まで足を運んでしまったのも無理からぬこと。
勝手知ったるとばかりに荒い足音で階段を上がる若旦那の後を追い、突き当たりにある座敷の襖を開けたところで存外強く腕を引かれて、敷居に躓きつんのめったのも、だからきっとあたしのせいじゃあない筈だ。








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