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4.


だからあたしとしても、一応気を遣ってみたわけなんだけど。
途端、更にと顰められた眉。
うわ、怒らせた?!と、さすがに慄かなかった筈もない。
いやまあ、あたしがお断り出来る立場に無いことぐらい、重々承知してますけどね!
だけど、今以って幼なじみに未練たらたらと思しき相手に嫁ぐとか、夫婦になるとか、どう考えてもやっぱり不毛。
しかもこのひと、あたしのことは相当気に入らないと見えますし?
だったら縁談自体無かったことにした方が、お互いの為ってモンじゃない?
そもそも既に行き遅れに片足突っ込んだみたいなあたしはともかく、若旦那ってばまだ十六よ?
いらんでしょうが、嫁の心配とか!
あと十年は遊んでいられる年でしょが!
その容姿と財があったら、女はより取り見取りでしょが!
況してやあたしが見たところ、日番屋の旦那様もお内儀さんも、健康そのもの。
今すぐ先の心配をする必要もなさそうだったし、何よりも今、三つも年嵩の――それも実家が小さな菓子屋を営むばかりのあたしなんぞで手を打つ理由からして無いではないか。
(それに、例え惚れた女との仲を親に反対されてるにしたって、説得したらいいじゃない)
まだ十六なんだし、時間だったら幾らもあるでしょ。
この娘だってまだ若いんだし、何も今すぐ嫁ぐ必要なんてないでしょ。
仮に説得に失敗したところで、最悪先に子でも作って無理矢理にでも認めさせちゃうとかすればいいでしょ。
あたしを巻き込まずとも、手だてなら他に幾らもあるでしょが!
そう思ったから、焦れてここまでやって来たのだ。
ひとつ、発破を掛けてやろうじゃないよと思ったがゆえの衝動である。
けれど駆けつけた先が運悪く、逢引の最中と来たもんだから、どう切り出せばいいのやら…。
況してや若旦那は、先刻に増して機嫌が悪い。明らかに怒っていらっしゃる。
断りに来たと告げただけで豪く不機嫌な顔になったものだから、正直あたしとしても戸惑っている。後悔している。
…とりあえず、今日のところは出直したほうがいいかしら?
一応お断りする旨だけは告げたのだし、後はあたしがお父っつあんとおっ母さんを何がなんでも説得して。
京楽様を通して正式にお断りの返事を入れさえすれば、すぐにも無かったことにされるだろうか、と。
頭の片隅で算段しながら後退る。
それじゃああたしはこれで、と。
すぐにも引き返そうと踵を返したのだけれど。
「待ちやがれ!!」
その瞬間、鋭い怒声が飛んで、ひいと慄いた。
腕を掴まれ、引き止められて。
ギョッと目を丸くして反射のように振り返ってから目の当たりにしたその形相に息を呑んだ。
(っこ、恐あああああ!!)








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