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3.


「ちょっと、日番屋の若旦那!!」
つい先だって、見合いの席で顔を合わせたばかりの若旦那の姿を二間先に見咎めて、勢い余って声を張り上げる。
けれど、よくよく見れば若旦那の隣りには、随分と可愛らしい子が寄り添うように立っていて。
…ああ多分、これが若旦那が岡惚れしている幼なじみの舟宿のお嬢さんなんだろうなと確信を得る。
(わあ、何よ。見るからにお似合いじゃないのよ、このふたり!)
十六にしては少しばかり小柄な体躯をしている若旦那は、実は立って並ぶとあたしより僅か背が低い。
だけどその子は小柄な若旦那よりまだ背が低く、並ぶ姿は実に釣り合いが取れていて。
なんとゆーか…お人形のように可愛らしかった。
てゆーか、ぶっちゃけ羨ましかった。
(だって笑ってんじゃないのよ、このひとってば)
お見合いの席で、あれほどぶっすりしていた癖に。
すんごい面白くないって顔をして、眉間に皺寄せてあたしのこと、睨むか目ェ逸らすかしていた癖に。
なのに今、件の幼なじみの前でこのひとは、確かに楽しげに笑っていた。
(うわー、そーゆー顔も出来るんじゃない!)
そんな驚きを憶えるほどには、正直衝撃を受けていた。
…うん、これって完璧論外よね、あたし?
これでこのひと、あたしと夫婦になろうとするとか、どう考えてもありえないわよね。
だって改めてあたしへと向けられた目は、それまでの穏やかな眼差しとは打って変わって冷淡になった。
(いやその前に、相当驚いていたみたいだけど。…って、そりゃそうか)
なんでこんなところに居るんだって思われたって不思議ないわよね。
いやまあ、怒りに任せて門前仲町から走ってきたあたしも大概だけど、何もそんなおっかない顔して睨むこともないじゃない?
てゆーか、態度豹変し過ぎだから!
弾む息を落ち着かせて、改めて若旦那へと向き直る。
「なんであんたがここに居る?」
困惑混じりに問い掛けられて、未だ汗の滲む手のひらを、思わずぎゅうと握り締めた。
そうして、ぐと見据えた先。
「その…例のお話ですけれど、お断りに来たんですっ!」
…何の『話』であるのか、は。
さすがにこの場で口に出すのは憚られたから、辛うじて濁しながら口にした。
(だってもし彼女が見合いのことを知らされてなかったとしたら、やっぱりちょっと…マズイじゃない?)








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