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2.


大いに乗り気なお父っつあんとおっ母さんには、水を差すようでとうとう言えず仕舞いだったのだけど。
縁談の話が来てすぐに、山本町へとお嫁に行った女友達が里帰りをしたのを是幸いと誘い出し、それとなく…若旦那のことを訊ねてみたのだ。
そしたらなんとまあ、あの若旦那、近所に住まう幼なじみの大きな舟宿のお嬢さんと、いい仲らしいと言うではないか!
「まあ、そうは云っても向こうも跡取り娘なわけだし、よもや家を捨てて材木問屋に嫁げる筈もないでしょう?況してやあの若旦那が家を捨てて舟宿に入り婿するってわけにもいかないし」
だからいずれは諦めて、どこか大店のお嬢さんをお嫁に貰うんじゃないかって噂よう、と。
お汁粉を啜りながら教えてくれた『噂話』とやらに、…なるほど、と。
あー…、つまり若旦那本人にその気は無いってことよねえ、と。
それじゃああたしが断られるのは火を見るよりも明らかかしら?と思って挑んだ筈のお見合いだった。
――なのに、なんで話が纏まっちゃうのよ!
しかも、秋には祝言…て!!
ふた月も無いとは、余りに急な話ではないか。
驚いたあたしが、お父っつあんが止めるのも聞かず、慌てて家を飛び出したのは言うまでも無い。
向かうは当然、見合い相手の若旦那の元である。
(冗談じゃないっ!!)
幾ら玉の輿の相手とは云え、男ぶりもなかなかの…ぶっちゃけちょっと好みの顔だったとは云え。
他に好いた女の居る男の元へ嫁ぐなんてあたしはご免だ。
(しかもその子、ご近所なんでしょ?幼なじみなんでしょう?!)
況してやひとり娘の婿取りならば、この先もふたりが顔を合わせる機会は幾らもあるわけで…。
となれば、そうそうお互い忘れられよう筈もない。
(いやあよ、他の女に心移したまんまの相手と夫婦になるなんて!)
そもそも若旦那にその気が無いのは明白なのだ。
下手すれば、その幼なじみ相手に焼けぼっくいに火がつきかねないではないか。
そんな男の元へと嫁いだところで、どう考えても幸せになれる筈もない。
だいたいそんないい仲の相手がいるのなら、親の言いなりにあたしなんぞを娶らなくとも、多少時間を掛けてでも両方の親を説得して、ふたり添うように事を運んだらいいじゃない。
ええい、そんなすったもんだに無関係なあたしを巻き込んでくれるな!と、腹が立ったからに他ならない。







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