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死ぬまでいなくならないで 5


「松本っ!!」


我に返ったのは、あの子の声が。霊圧が。
あたしを包み込んだから。
茫然自失のあたしの元へ、あの子が駆けつけてくれたから。
誰よりも早く、…いち早く。
あたしの霊圧の乱れを感知して、あたしの部屋へと駆けつけてくれた。
――そうして目の当たりにした。
錯乱の余り、半狂乱へと陥るあたしを。
泣くことも出来ず、さりとて声を出すことも出来ず。
ただ狂ったように自傷行為へと駆られたあたしを目の当たりにして、あの時あのひとがどれほどショックを受けたのか…。
今のあたしには、計り知れないのだけれど。
まだ幼いあのひとの目に、どれだけおぞましい光景と映ったのか。
今となってはわからないけれど。
それでもあのひとは厭うことなく、けれど恐る恐ると云った態で、あたしへと向けて腕を伸ばした。差し伸べてくれた。
今にも泣き出しそうな顔をして。
「辛れえんだったら、ちゃんと…泣け」
隠すな。
飲み込むな。
自分自身を傷付けんな。
囁くように諭されて、力なく抱き寄せられたその腕の中で。
何かがぷつりと音を立て、歪に千切れたような気がした。
枯れてしまったと思った涙が。…言葉が。
堰を切ったように溢れ出したのだ。
「っっ…!!!」
それはまるで、咆哮を上げる獣のように。
あのひとの薄い背中へと、腕を廻して、縋るように抱き着いて。


行かないで!
あたしを置いて、ひとりでどこへも行かないで!
ねえ、どうして何も言わずに消えたの?
どうでもよかったの、あたしのことなんて。
必要ないの?
誰にも必要とされないの?
辛い。
苦しい。
胸が痛い。
ひとりは…イヤ。
置いてかれるのはもっとイヤ!


だからどうかこの手を離さないで、と。
声にならない言葉であのひとにぶつけた。
激情のままに、昏い絶望を。
救いようのない孤独を。
痛みを。
悲しみを。
あのひとは、たったひとりで受け止めたのだ。
…ただ、ひとり。
あたしの抱く、暗い闇を垣間見たのだ。その腕の中に。
知らしめたのだ、まだ幼いあのひとにあたしは。
志波隊長を失って、抜け殻のようになったあたしの心を、闇を、目の当たりにしてしまったのだ。








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あきゅろす。
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