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死ぬまでいなくならないで 4


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あたしと隊長以外のだあれも知らないことだけど。
…あの日。
志波隊長があたし達の前から…尸魂界から忽然と、姿を…霊圧を消してしまった夜。
あたしはひとり、半狂乱に陥った。
否。
決して人前で面に出したつもりはない。
尤も、さすがに動揺までは隠せなかった。
志波一心の霊圧が、現世で突如断たれた・と。
報告を受けて動転するより先に、席官以下隊員達に走った不安と動揺を、静めることに躍起になったから。
「あンのバカは!また何やらかしたのよっ!!」
副官として、上司として。
いつも通りのちゃらけた態度で罵ることで少しでも、皆の受けた衝撃を、和らげなくちゃと思ったから。
冷静を装うことで、自身の動揺をも堪えていた。辛うじて。
けれどどうしても…脳裏を過ぎるのは、嘗ての『痛み』に他ならない。
あたしを置いて、ひとりひっそりと姿を消した――棄てられた、遠く幼いあの日の苦い記憶と悲しみと。
…嗚呼、あたしは『また』棄てられたのだ、と。
思い知らされた、絶望の淵。
緊張の糸がぷつりと途切れたのは、夜半過ぎ、自室に帰り着いて間もなくのことだ。
何も見えない、足元さえも覚束ない。
暗い闇の中へとひとり、突き落とされたような不安と絶望。
頽れるようにその場に座り込んだまま、身じろぎひとつ出来なくなった。
指一本動かせない。
声すら出せない。
涙も出ない。
瞬きひとつも出来ないままに、ただ…嗚咽だけがこみ上げた。
(ねえ、またあたしは置いてかれたの?)
誰ひとりとして、あたしの傍には留まらない。
一度はあたしへと差し伸べてくれた筈の手を、誰しも翻し、黙ってあたしの前から消えてゆく。
追いかけることすら出来ない場所へ。
追いかけることすら許さないように。
震えは止まらず、断続的にこみ上げる嗚咽に、最早呼吸もままならなくなった。
気付けば自身で自身の肉へと、幾度も爪を立てていた。
…痛みはない。
だってそれ以上に心が痛むから。
…涙も出ない。
だってとっくに渇いてしまったから。
腕から、頬から、両の脚からも、じわりと滲み出る。あたしの…血。
鉄錆にも似た匂いが少しずつ、部屋の中へと広がってゆく。
やがて充満をした、その時のことだ。









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