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死ぬまでいなくならないで 3


「帰るぞ、松本」

賑やかだった空間に、一瞬にして響き渡った水を差すような冷静な声。
けれど、その声に。
肩に置かれた小さな手のひらのぬくもりに。
何よりあたしは安堵を憶える。
今日も今日とて「はーい!」と元気いっぱい頷く。
幾度と無く繰り返されてきた一連のそのやり取りは、最早誰しも了承済みで。
今となっては引き止められるようなこともない。
「ええっ…と、それじゃあお代を…」
「いい。お前の分は払っておいた」
「ありゃま。どーゆー風の吹き回しですかあ?」
「だあほ。給料前で金欠なんだろ、どうせ」
「おおう、お見通しとは恐れ入ります」
「言っとくが、貸し一だからな。明日はサボらず一日きっちり働けよ」
「んふふ、奢りの代償が真面目にお仕事…って、随分寛容ですねえ、たいちょ」
「うっせえ。それが俺にとって一番見返りがデカイんだよ」
「はいはい、それじゃあ明日は真面目にお仕事頑張ります」
「おう、そうしてくれ」
ひょいと片手を伸ばして、あたしの飲みかけの猪口の中身をクイと呷った後、行くぞと手を引かれ席を立つ。
「じゃあねー!あんた達も早く帰んなさいよ!おやすみー!!」
空いたもう片方の手を大きく振って、陽気そのものにみんなに告げる。
苦笑で以って見送られる中、ふたり、喧騒を後にする。
繋がれた手は、そのままに。
決して変わらぬぬくもりが、今この手のひらの中にある。






――隊長、は。
決して雛森を見捨てない。
きっと大切にする。誰よりも。
藍染の仕打ちを、裏切りを、きっと一生赦さないだろう。

(あたしが傷付く姿を見てしまったから)









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あきゅろす。
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