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15.


里子に出されて十数年、杳として知れなかった娘の居所。
――即ちそれが、吉原の大門の向こうだったと云うわけだ。
けれど、聞けば冬獅郎の姉は何も、最初から吉原の妓楼に売られたわけでも何でもなかった。

「元々姉は、子どもの居ない揚屋の夫婦の元へ引き取られたと聞いている」
「…揚、屋?」
「ああ。何でも吉原に古くからある老舗で、それまでも手堅い商いをしていたと云う話だった。――けど、ここ数年で揚屋は悉く引手茶屋に取って代わられ、廃れるばかり。当然見世は借金が嵩み、恐らく二進も三進もいかなくなったんだろう。奉公人の女中と養子の姉とを借金のかたに置き去りに、主一家は突然の夜逃げ。姉も奉公人の娘達も、その日を境に皆女郎として奉公先を鞍替えするより他なかったそうだ」

畜生腹として生まれたばかりに里子に出され、養子となった先で後取り娘として育ったのち、小見世の女郎として売られた彼女を深川の借宅で偶然にも目に留めて。
すぐに通じるものがあったと冬獅郎は言った。
(それこそが、『夫婦腹』と呼ばれる所以だろうか?)
その夜の内にすぐさま両親へと問い質し、それが真実血の繋がった姉であると知った冬獅郎は。
実の姉を苦界から救い出すべく両親と共に身請けの為の金を用意し、これ以上無用な客を取らずとも済むようにと、身請けが済むまで見世へと通っただけだと言った。

「無論、その間他の妓を抱いてもいねえ。指一本だって触れちゃあいねえ。…黙ってたのは、そりゃあ悪いと思ってる。けど、どうしても知られるわけにはいかなかったんだ」

…悪かった、と。
どこか怯えを伴った目で、泣き出しそうに侘びを口にする。
深く腰を折り、頭を下げる。
そんな冬獅郎を前に、あたしは最早、何も言えなくなっていた。
恐る恐る抱き締める手に、抗うことすら出来なくなっていたのだった。







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