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14.


※一部差別的表現を含みますので要注意


「…畜生腹を、知ってるか?」


問われてハッと息を呑む。
まさかと思って面を上げた。
――畜生腹とは、いわゆる男女の双子のことで、夫婦腹とも呼ばれている。
理由は前世、相対死した男女の生まれ変わりとして忌み嫌われているからだ。
「…その、まさかだよ」
あれは俺の双子の姉で、正真正銘血の繋がった姉弟なのだ、と。
苦しそうに告げたあのひとは、だから身ごもった子どもは決して自分の子ではないと。
父親は誰かもわからない、夜毎抱かれる客の誰かの子どもである、と。
苦々しげに口にした。

「隠居したうちのじいさんてのが、昔から豪く偏屈な上に迷信深い頑固者だったらしくてな。生まれた俺と姉を見て、畜生腹だと殊の外嫌悪したらしい。とにかく早く片方をどこかにやれと騒ぎ立てて、結局親父達の反対を押し切る形で勝手に姉を里子に出してしまったそうだ。…無論、母さんは半狂乱。ただでさえ産後の肥立ちが悪かったところに追い討ちを掛けられて、結局その後間もなく大川へと身を投げたそうだ」

母さん自身、畜生腹だったことでじいさんから随分と酷いことを言われていたみたいだったしな、と。
消え入るように小さな声で口にする冬獅郎の目は、どこか翳りを帯びていて。
傍目にも青ざめているのが良くわかる。
生みの親である冬獅郎のおっ母さんは早くに亡くなり、今のおっ義母さんが後添いであることは既に話に聞いていたけれど。
よもやそんな事情があったことまでは知らなかったから、驚いた。

「親父も…じいさん相手に里子に出した先を何度もしつこく訊ねたようだが、そのたびに頬を張られたそうだ。どうあっても教えるわけにはいかねえ、娘のこたあ忘れろ!…ってな。だから仕方ねえ、じいさんの手を借りず、忙しい商いの合間を縫って、それこそ何年も掛けて誰にもバレないようにと、里子に出された姉の行方を捜していたらしい。尤も親父も、十年と経たない内にじいさんから家督を譲られ、ますます以って商いに忙殺されるようになったらしくてな。とてもじゃないが姉の行方を探すだけの時間も暇も無くなったそうだ」

だから依然として里子に出された姉の行方はわからず仕舞い。
ずっと気には掛けていたようだったが、親父もとうに姉のことは諦めていたらしいと冬獅郎は言った。








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