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7.


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――三年前。
俺の女になる気はないかといきなりの如く切り出した俺に、女が酷く戸惑ったことは知っていた。
何しろその頃の俺はまだ十六とガキでしかなく、そもそも情を交わすに足る相手とも思われていなかったことだって承知していた。わかりきっていた。
それでも声を掛けずにはいられなかったのだ。あの時、俺は。
病弱なお袋さんと幼い弟の生活を支えることが困難となり、岡場所へと身を落とそうとする女を前に、酷くうろたえていた。気が急いていた。
何としても阻止しなくてはと焦っていたのだ。あの時、俺は。
…惚れていたから。好きだったから。
ふたつ年上の水茶屋の女に、十六の俺は岡惚れしていた。あの時、既に。
だがどうせ相手にされる筈もないだろうと、半ば諦めてもいたのだった。
何しろ女は十八の娘盛りで、そろそろ嫁に行ってもおかしくはない年だった。
否、もしかしたら既にもう、相惚れしている男がいるのかもしれない。
そう思うと客のひとりとして振舞うことしかできなかったのだ。
けれど、あの日。
女衒と思しき男と小声で話す彼女のその面差しに、いつにない切羽詰ったものを見て取って、悪い予感に見舞われた。
彼女の父親が亡くなり、身体の弱いお袋さんと弟とを、今は彼女ひとりが養っているも同然らしいと以前耳にしたことがあった。
なるほど、幾ら水茶屋の給金がそれなりとは云え、若い女の稼ぎひとつで家族三人の暮らしを賄うことはさすがに不可能だと言えた。
況してや季節の変わり目など、体調を崩した家族の看病とやらで店を休むことも間々あったのだ。
当然、実入りはおよそ芳しくはないだろう。
となれば、身売りするより他はない。
この辺りの水茶屋の茶汲み娘の中でも群を抜いて際立つ彼女の容姿を思えば、それが一番手っ取り早い稼ぎ方だと確かに言えた。
だがそうなれば、この先女郎としてしか彼女に会うことは叶わなくなる。
他の男へと身を任せ、手折られるばかりであると思えば頭が煮えた。
…ならば、どうせその身を売ると云うなら、俺が買ってもいいんじゃねえか?
金に飽かせて彼女を買って、俺ひとりが囲って好きに抱いたところで構やしねえんじゃねえか。
そんなほの暗い考えが、ふと脳裏を過ぎって高揚をした。







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