[携帯モード] [URL送信]
3.

*
*


あれからおよそ三年に亘り、今尚続く夜毎の逢瀬。
与えられた家は黒板塀に囲まれた、如何にも妾宅と云ったそれではあったが、これと云った不満はない。
狭くはあるが、庭もある。手入れも充分為されている。
これまでの裏店住まいを思えば、天と地ほども差があった。
手当てにしても、――妾奉公の相場なんてものはよくわからないのだけれど、それでも充分過ぎるほどの手当てを貰っているとも思う。
こんなに貰っていいものなのかと驚くあたしにあのひとは、「吉原の大見世辺りで遊んだら、そんなもんじゃ済まねえからな」と笑うばかりで一向に意に介する素振りもない。
ばかりか、この金でおっ母さんと弟をちょっといい医者にでも見せてやんなと豪気にのたまうものだから、幾ら金で買われただけの身とは云え、心惹かれない筈もない。
果たして薬が効いたのか、はたまた暮らし向きが良くなったおかげなのか、病弱だった弟の身体も三年と云う月日の間に目を瞠るほどに丈夫になった。
おっ母さんの方も未だ時折寝込むようなこともあるようだけど、少しずつ…以前のように繕い物の仕事をこなせるようになりつつあった。
これも全てあの時あたしを助けてくれた、手を差し伸べてくれたあのひとのおかげなのだと思うと増す愛おしさ。
どれだけ救われたかわからない。
やさしくされたかもわからない。
感謝してもしきれないとは、こういうことを言うのだろうとしみじみ思う。
出来ることならずっとこうして傍にいたい。
この腕に抱かれていたいと思う。
けれどあたしは、それが所詮『叶わぬ夢』であることを知っている。
まだ年若いこのひとは、いずれ釣り合いの取れた大店のお嬢さんでもお嫁に貰って、店を継がなくてはならないのだ。
そこにあたしの居場所は無く、またあのひとにとってもいずれは不都合極まりない存在になるに違いない。
近頃頓にそれを感じている。






[*前へ][次へ#]

4/23ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!