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3.



やがて滞りなく残りの食事も済ませ、ほんの少しの会話と景色を楽しみ会計を済ませた俺達二人は、松本のホッとしたような笑顔に見送られながら店を出た。
どうせなら厭味のひとつ…文句のひとつも言ってやろうと思わなかったわけではないけれど。
日曜の午後とあって店内はまだ充分過ぎるほどに混み合っていたし、俺達の後ろには会計を待つカップルも空席を待つ老夫婦も並んでいたから結局口に出すタイミングを失ってしまったに過ぎない。
それに、今。こんなところで責め立てたところで、女の口から充分な話が聞けるとも思えない。
俺だって、冷静に話が出来るとも思わない。
況してや今は連れのいる身だ。
だから、退いた。今日のところは。
ただそれだけのことだと、己の中に言い聞かせた。
会計を済ませた途端スッと腕を組んできたのは、つい先日、しつこく言い寄られ断るのも面倒だからと流されるままに付き合い始めたばかりの、いつ切れてもいいような関係の同期の女。
正直、鬱陶しいなと思いもしたが、敢えて松本の前で振り払うような真似もしなかった。
そうして試すように流した視線の先。
だが松本が、そのことで顔色ひとつ変えるようなことは無かった。
店員と、客。
あくまで徹せられたその笑顔に、またひとつ。
俺の苛立ちが募ったことも知らないままに。



「ねえ、次はどこに行こうか?」

はしゃぐ声を間近に聞きながら、曖昧に笑って、流して…だが、その後。
何を話したのかも憶えちゃいない。実際には。
傍らの女と交わした会話も。
どこをどう辿り、自分の家へと戻ってきたのかさえも。
記憶の淵からはすっぽり抜け落ちていたのだった。
ただ、色鮮やかに脳裏に焼き付き、繰り返し瞼に浮かび上がるのは、6年振りに見た松本の横顔。松本の笑顔。
店を後にして、今尚…ずっと。
意識は完全にあの女へと向けられている。
まるで不快な小骨のように、心の奥底に引っ掛かっている。
…あの街に、今。
嘗て俺を棄てた女がいるのだと思うと、どうしようもなく心は乱れた。








ちなみに、文中に出てくる「接客業である以上〜」ってヤツですが、実はこれ、むかーし管理人が初めてコンビニのバイトをやった時に、同じシフトに入ってた男の子に言われたことだったり(笑)
当時、なるほど〜!と思って、今でもすんげー心に残ってる言葉なのですお^^

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