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stray sheep 1



「ねえ、アンタあたしの彼氏にならない?」

そう言って。
問い掛けてきたのは隣の家に住む女子高生だ。
ゆるふわの金髪。あおいろの瞳。
派手で今風なナリに反して、ゲーマーで。
何気に「マリオがあたしの理想のオトコ!」とのたまう、若干イタイ系の女でもある。
否。
そもそも暇さえあればDS片手に俺の部屋へと入り浸り、対戦ゲームに明け暮れているのだから若干どころかだいぶ痛い…。
てゆーか、ここはお前の部屋か?
思わずそう突っ込んでやりたくなるほどに、我が物顔で寛ぐ女は今にも下着が見えそうなほど短いフレアースカートで、ごろりと床に寝そべりながらDS画面に見入っていた筈だった。
…つい、今し方までは。
(それがなんでいきなりそうなるよ?)
彼氏?
彼氏っつッたか、今この女は。
(脈絡無いにも程があんだろ!)
だが、目の前の女――松本は、然程気にした様子も素振りもなく、相も変わらずDSの画面をタッチペンでつついている。
挙句、「彼女、欲しくない?尽くすよー、あたし」と。
尚も自分を売り込んでくる始末だから絶句した。
「てゆーか、ちょっと待て。何でそんな話になってんだ?」
「えー、なんで…って、何となく?」
「何となくで小学生のガキ相手に、彼氏になれとか無茶言うか、普通?」
呆れて「ハァ」と溜息を吐けば、漸くの如く顔を上げた松本が、ゲームをセーブして画面を閉じる。
畏まって居住まいを正してから、ベッドに寄りかかる俺の方へと向き直る。
松本は背が高い。
多分、軽く百七十は超えている。
相対する俺の身長は、悲しいかな小六男子の平均身長をやや上回る、ギリ百五十ってところだろう。
ゆえに、見るからに俺は『ガキ』でしかなくて。
とてもじゃねえが、女子コーコーセーなんぞに惚れられるような要素があるとは思えない。
況してや物心ついた頃から隣りに住んでいて、自分が遊んでやったり面倒見てた、四つも年下のガキだぞ俺は。
どう考えても恋愛対象になんてなる筈がない。
いいとこ年の離れた『弟』ってとこなんじゃねえの?と思うのだ。
だいたい思い起こすにこれまで一度たりともコイツが俺を、そう云った目で見たことなんてなかった筈だ。
モロ『対象外』、モロ『安全牌』扱いで、事実コイツは中学に上がった頃からちょいちょい男を作っていたし、その間俺の部屋へと寄り付くこともなかった筈だ。
…尤も、その期間は大抵そう長くは続かない。
音沙汰を失くしてひと月もすれば、また再びぽつぽつと俺の前へと顔を出す。
部屋を訪れるようになる。
気付けば入り浸りになっている。
そんな時は大抵男と別れた後で、フリーになった途端また俺に構いだす。
ゆえに、ヤツが男と付き合うスパンは、基本どれも恐ろしく短い。
そんな松本が、なんっっで俺と…?
とうとう頭が沸いたか、と。
訝る俺へとへらりと笑いかけ、ずずいと身を乗り出した松本は、言っちゃ悪いがとても高一女子には見えない。
(つか、近けえよ)
いつもだったら然して気にも留めないだろう距離なのだけど、さすがにこのタイミングでこの近さは…身構えてしまうには充分過ぎた。








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あきゅろす。
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