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幻月夢想 2



あまつさえ、…付き合おう、と。
告げられた言葉を遠く耳に聞き、暫しあたしは呆然とした。
いったいこのひとは何を言っているのだろう、と。
けれどあのひとは尚も縋るようにあたしを腕へと抱いて、ただ…すまない、と。
失いたくはないのだ、と。
この事態を悔いるかのように、繰り返しあたしへと詫びたのだった。
だから笑うより他はない。
そんな悔恨と責任なんて、何ひとつ感じる必要はないのに、と。
同情なんてしてくれなくてもいいのに、と。
ちゃあんと他に想う相手が居るくせに、何を血迷ってかあたしなんぞの手を取ることもないのに、と。
あたしの方こそが泣きたくなった。
そんなものを望んだつもりは一度も無い。
そもそもこんな怪我に負い目を感じ、今更のようにあたしを顧みるような真似などして欲しくは無かった。
(だってそんなの惨め過ぎる)
だから笑い飛ばして肩を押し退けた。
「何言ってんですか、たいちょ!ちょっと落ち着いてくださいな」
そうして、ごめんなさいと頭を垂れた。
改めて目の前のあのひとに向けて。
「ひと月近くも臥せるとか、ご心配とご迷惑をかけてごめんなさい。でももう、本当に大丈夫です。こんな無茶だってもうしません。…だから大丈夫です、大丈夫なんです。たいちょがあたしに責任なんて感じなくともいいんです。況してや、あたしを好きだなんて…心にもないことを言わないで下さい。付き合うなんて…止めて下さい。だって、隊長が好きなのは…」
雛森でしょう?と。
痛む胸の内を堪えて口にした途端、大きく歪むあのひとの面持ち。
そうじゃねえ。
そうじゃねえんだ、と繰り返す声は涙に濡れていて、ますますあたしは困惑に駆られる。わからなくなる。
あのひとのことが…。
そんな混乱に心と身体が悲鳴を上げてしまったのだろうか。
結局そのままあたしは、ふつりと糸が途切れるように、再び意識を手離したのだ。



「…おい、松本!松本、しっかりしろ!!」

卯ノ花、誰か早く卯ノ花を!!



遠ざかってゆく意識の合間に、あのひとの声を聞きながら。
再びあたしは長い眠りに就いたのだった。
それから目覚めるまでに有した時間は、およそ半月余りだったとのちに知らされて、それにまたあたしは大層驚いたのだった。



*
*


こうしてあたしはおよそふた月にも及ぶ四番隊での長い療養を経て、漸く執務に復帰することとなった。
尤も、二度目の長い眠りに就く前に、告げられた筈のあのひとの『言葉』は全て。
混沌とした意識の狭間の夢まぼろしと綯い交ぜになり、あたしの中では既に忘却の彼方へと葬り去られていたのだけれど。






end.

「黄昏が夜になる」に至るふたりと思っていただければ。個人的には書いててとっても背中がむず痒くなる系のコネタです(爆)
そんでこの日番谷は中人サイズなんだけど、多分言わなきゃ誰も気付かないだろうなとふと思ったり…。 

お題:sein

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