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12.


思い掛けない、窺うようなその問い掛けに、弾かれるように首を横に振る。
「…じゃあ、前の男が忘れられねえか?」
続けざまの問い掛けに、今度はぶんぶんと思いっきり良く首を振る。
全身全霊を以って否定する。
――所詮、人質でしかないけれど。
所詮は和平の為の政略結婚でしかないのだけれど。
それでもこうしてお傍に居る内に、心惹かれた。好きになっていた。
例え『心』までは望まれていない、望むことすら叶わぬ形ばかりの夫婦であったとしても。
例えお飾りだけの皇妃だとしても。
だから「嫌い」な筈がない。
けれど、このひとはそうじゃないんだ。
あたしの耳にした『噂』がデマであることを、懇切丁寧に説いてくれはしたけれど。
(それってアレよね?あたしに身に覚えのない言い掛かりなんぞをつけられたから、面白くなくて否定したってだけのことなのよね?)
(それともアレかな?信頼を寄せる部下の名誉を守るため…とか?)
いずれにせよ、身の潔白を証明したかっただけのことに違いない。
だから例え陛下の恋人の『噂』が単なる誤解だったと知れたところで、陛下に特別意中のお相手がいたワケじゃないと知れたところで。
このひとがあたしを厭うているのは紛れもない『事実』なのだから、…やっぱりあたしの片想い。
(夫婦なのに片想いって、空しいことこの上ない)
だからどうしても気持ちは沈んでゆくばかり。
今はともかく、いずれはきっと寵妃を見つけて、そっちに入り浸るようになるんだろうな。
あたしは所詮、それまでの繋ぎみたいなものなんだろうな。
慰み者でしかないんだろうな、と。
思って心中ガックリ項垂れる。






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あきゅろす。
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