[携帯モード] [URL送信]
10.


「…つか、それがどっから仕入れた噂か知らねえが、俺に寵愛していた『女』なんていねえ」
「んなっ?!そそ、そーなんですか?」
「ああ、それだけは誓って言える」
だいたい俺ァ、『女』はお前しか知らねえよ、と。
ぶっすりと明かされたそれは、果たして身の潔白を証明するが為のものだったのだろうか。
(いやまあ、そこまで踏み込んで聞くつもりじゃあなかったんですけども)
思いがけない打ち明け話に、ついうっかりと紅潮をする。
なのに目の前のあのひとときたら、すぐさまそれを覆すような態度に打って出たから仰天をした。
「けど、お前の『話』に思い当たる節がないわけでもねえ」
「へ!?それじゃやっぱり、身に覚えがあるんじゃないですか!」
即座に突っ込むあたしに、ハァと特大の溜息を吐いて。
改めてあのひとはあたしに向けて問いかけてきた。
「――伊勢を知っているか?」
「……は?」
「今回お前らの国に攻め込むに当たって、何度か夜中、伊勢の部屋に出入りした」
「う、えええええ!?」
なにそれ、なにそれ!!
何が、身に覚えがない、よ!
伊勢と云えば、アレでしょ。
すんごいクールな知的美人!
お城に上がってすぐに一度だけ、顔を合わせたことがある。
小柄で黒髪、切れ長の黒目。
…なるほど、確かに噂の通りだ。
宰相補佐と云うクールビューティーな才女であるだけでなく、この国の王族とも太いパイプを持つという、名のある貴族の娘と聞いている。
「それは…確かに、お似合いですねえ」
思わずぽつりと口に出した先、ムッとあのひとが顔を顰めた。
「だから違げえっつッてんだろが!!」
うがあ!!と苛立たしげに叫んだ陛下は、ガシガシと自身の頭を掻き毟ると。
「そんなんじゃなくて、伊勢はこの国の実質『宰相』なんだよ!!」
と、まるでやけくそのように口にしたものだから、思わずあたしは耳を疑った。







[*前へ][次へ#]

11/20ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!