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9.


和平と利害、国のためにと娶るより他なかった人質の女。
恋人のいた陛下にしてみれば、あたしなんて目障りでしかなかった筈だ。
なのに、なんっでそんなこと聞いてくるのよ。おかしいじゃない!
そう思ったらふつふつと、なんてゆーか…怒りが湧いた。
憤りがこみ上げてきた。
「厭うているのは陛下の方でしょ」
だから思わず声にしていた。
それも恐ろしく低い、地を這うような声だった。
「…は?どーゆー意味だ」
「どう云うも何も、そのまんまの意味です。あたしみたいな女を妻にと押し付けられて、陛下が迷惑していることぐらい知ってます」
「っな…!?」
目と、口とを。
お皿のようにまんまると開けて、唖然と言葉を失くした陛下を横目にちらりと見咎めて。
「…図星ですか」
溜息と共にそっぽを向いたら、慌てたようにあのひとが、違げえ!!と叫んで腕を強く引く。
焦る顔を目の当たりにする。
「つか、ちょっと待て!何か論点ズレてねえか?!だいたい何で俺が迷惑してるとかそーゆー話になるんだよ!おかしいだろ!!」
「おかしくないです。てゆーか、むしろそれが本題です。だって陛下には好きな方がいらしたんでしょう?あたしとの婚姻が決まる前、毎晩の如くその方の元へ通っていたって噂で聞きましたもん。だから本当は、そのひとを皇妃に娶るつもりでいらしたんでしょう?だったらどう考えても迷惑なだけじゃないですか、あたし。たかが和平の為の人質でしかない女が、それも小国の出の役にも立たないあたしみたいな女がのそのそ皇妃の座になんて就いたら、目障りなだけじゃないですか。嫌われて当然じゃないですか」
ギと睨みつけてから、これまで溜め込んでいた苛立ち全てを思うがままにぶち撒けたなら、唖然と話を受け留めていたあのひとが、放心したようにぽつりと小さく口にした。


「…つか、そいつァ何の話だ?」と。





その余りのお間抜けな反応に、今度はあたしが唖然とした。
噛み合わぬ会話。
戸惑いばかりが漂う空気に、暫し互い顔を見合わせて黙り込む。
その沈黙を先に破ったのは、ふっかーい溜息を吐いた陛下の方だった。







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